直木賞受賞!伊与原新の新作『翠雨の人』が登場
直木賞を受賞した伊与原新の最新作が、7月30日に新潮社から発売されました。その名も『翠雨の人』。本書では、実在の女性科学者である猿橋勝子の波乱に満ちた生涯を描いています。科学の世界に飛び込む少女の姿が、時代の変化に翻弄されつつも輝きを放つ様子がとても印象的です。
小説の舞台
この作品の主人公、猿橋勝子は1920年に東京で生まれました。紫陽花と雨が大好きな少女で、幼い頃から「雨とは何か?」という素朴な疑問を抱いていました。その思いは、科学者としての道を進む動機となります。学校教育を受け、高等女学校を卒業後、親のすすめにより生命保険会社に勤務。しかし、勝子は「もっと学びたい」という欲求を抑えられず、1941年に新たに設立された帝国女子理学専門学校に進学します。
戦中戦後の苦闘
帝国女子理学専門学校での学びを通じて、勝子は運命的な出会いを果たします。生涯の師となる三宅泰雄との出会いは、彼女の後の研究活動に大きな影響を与えました。戦中は中央気象台で勤務し、科学と戦争の関係に葛藤しながらも、彼女自身の信念を貫いた姿が描かれています。
恋愛と科学の狭間で
勝子は、科学者としての道を進む中でさまざまな選択を迫られますが、自身の社会的役割を果たすことに情熱を燃やします。結婚の選択肢もあった中で、誇り高く科学を選びました。戦後は、ビキニ水爆実験による「死の灰」の分析に取り組み、放射能汚染の実態を究明することで、社会に貢献する姿が凛々しく描かれています。
科学と人間性
『翠雨の人』は、研究の裏にある人間の感情や葛藤を深く掘り下げた作品であり、特に女性科学者としての立場から描かれる彼女の信念や情熱が物語の核を成しています。後に勝子は「猿橋賞」を創設し、次世代の女性科学者たちの育成にも尽力しました。本書は、戦後80年という時代背景の中、科学の目的が「人類を幸せにすること」であるという信念をもとに、彼女の情熱を伝えています。
著者の想い
著者の伊与原新は、「彼女の人生だけはこの手で書きたい」と語ります。科学者の人生を描くことで、世代を超えた感動を届けたいと願っているのです。彼女の強い意志は、多くの読者にインスピレーションを与えることでしょう。
まとめ
新潮社から刊行された『翠雨の人』は、単なる伝記ではなく、女性が科学の道を歩むことの意義を描いた感動的な物語です。ぜひ一度手に取って、その奥深い世界を味わってみてください。試し読みも可能ですので、興味のある方は是非、チェックしてみてください。