革新的な水素透過膜の開発
田中貴金属工業株式会社は、300℃前後の温度範囲で効果を発揮する高性能なパラジウム合金水素透過膜を開発した。この新しい技術により、従来よりも低温で水素を精製することができ、エネルギー効率の向上が期待される。
開発の背景
水素精製技術は近年、さまざまな分野での需要が高まっている。特に水素は、再生可能エネルギーとしての利用価値が際立っており、その精製には高純度な水素を生産するための先進的な技術が必要である。しかし、従来の水素透過膜は400℃以上の高温での運用が必要だったため、設備投資が増加し、コストがかさむという問題点があった。そこで、田中貴金属工業は、より低温での水素精製を可能とする新しい水素透過膜の開発に着手した。
パラジウム合金水素透過膜の特長
開発されたPdCu39系合金膜は、パラジウム含有率が61%、銅含有率が39%という独自の配合が特徴である。この膜は、従来のPdCu40合金よりも水素透過性能が高いとされているが、温度条件は300℃前後に抑えられている。これにより、従来の水素精製に必要だった追加の加熱設備が不要になり、コスト削減につながる。
特に、PdCu39の膜は、完全にbcc相(体心立方格子構造)を持つことが実現されたことで、高い水素透過性能を持つことが証明されている。これまでの研究では、fcc相(面心立方格子構造)が混在すると水素透過性能が著しく低下するため、完璧なbcc相の膜を作成することは難しいとされていたが、独自の熱処理方法によってその壁を打破した。
技術の利点
この新しい水素透過膜の開発により、以下の利点がもたらされる:
- - 300℃での運用が可能で、追加の加熱が不要。
- - 膜はピンホールフリーで、安定した性能を提供。
- - 従来の方法に比べて、水素精製設備の小型化が期待できる。
さらに、メタノール水から生成される水素を使用する場合、従来の400℃以上での精製が不要になり、装置の酸化が抑制されるため、長期的な運用コストの削減が見込まれる。
今後の展望
田中貴金属工業は、2025年9月から試作サンプルの提供を開始し、2025年に開催される日本金属学会の講演大会にて本製品の発表を予定している。この技術が商業化されることで、さまざまな分野において水素精製が効率化されることが期待され、持続可能なエネルギー利用の推進につながる。
会社概要
田中貴金属工業は1885年に創業し、貴金属を中心に多岐にわたる事業を展開している。国内ではトップクラスの貴金属取扱量を誇り、今後も先進的な技術開発に取り組んでいく。2024年度の連結売上高は8469億円で、5591人の従業員が在籍する企業である。
田中貴金属の産業用貴金属製品に関する詳細は、
公式サイトを参照してほしい。