世界初のクニマス産卵行動の撮影
山梨県南都留郡富士河口湖町に位置する西湖。この湖に生息するクニマスは、野生絶滅種でその生態には多くの謎が秘められています。令和7年12月2日、長崎幸太郎知事の発表により、研究チームは世界初のクニマスの自然環境での産卵行動を撮影することに成功しました。この成果は、長年にわたる研究と観察の結果です。
産卵行動の神秘
クニマスの生態は深層湖に偏在しているため、これまで産卵行動を観察することはほぼ不可能とされていました。今回の撮影は、30メートルの水深に設置した高感度カメラを使用して行われました。このカメラは水深による影響で緑がかった映像を提供し、複数の個体が湖底の砂から産卵行動を行う様子を明確に捉えました。特に、産卵場所を掘る行動や、産卵そのものなど、普段目にすることのできない貴重な瞬間が映像に収められています。
クニマスの生息史
クニマスはかつて、秋田県田沢湖にのみ生息していましたが、昭和20年には外来の酸性水によって絶滅してしまいました。代わりに本栖湖や西湖への卵の移植は行われましたが、いずれも生息は確認されませんでした。しかし、平成22年3月、東京海洋大学名誉博士の宮澤正之氏から届けられた西湖の黒いマスがクニマスであると特定され、これによって日本中に希望がもたらされることとなりました。
「奇跡の魚」としてのクニマス
この奇跡の魚を指して、天皇陛下は「奇跡の魚」と表現しました。現在、クニマスが自然界で生存する場所は世界で唯一、山梨県だけです。それゆえ、早急な調査と保護が求められています。かつては「魚一匹に米一升」とまで言われるほど珍重されたクニマスは、水産資源としての潜在的な価値を持ちながら、現在はその保護と調査が急務とされています。
研究チームのコメント
山梨県の農政部水産技術センター研究管理幹の青柳敏裕氏は、今回の撮影がもたらした意義を強調しました。このような深海での観察は非常に困難であり、観察なしでは生態の解明が難しい狭い世界での挑戦でした。地方の漁業協同組合や潜水士との協力によって、この絵を実現できたと言います。
クニマスの保全と今後の展望
今後もクニマスの産卵から孵化までの一連の調査を続け、さらなる生育環境の保全が急務です。また、水産技術センターでは、クニマスの完全養殖技術の確立を目指して飼育試験を実施しており、今回の研究成果をもとに新たな養殖技術への糸口を探る計画です。科学の進展が、新たな命の芽を守るための糧となることを希望します。