ヒトの内耳での超音波受容メカニズム新発見
岐阜大学大学院医学系研究科の任書晃教授と新潟大学の崔森悦准教授率いる研究チームは、モルモットの内耳蝸牛において、人間が通常は聞こえない超音波を感知する仕組みを発見しました。この革新的な研究成果は、動物が感知可能とされていた音域の理解を深め、特にヒトにおける超音波聴覚のメカニズムを解明するものです。
研究の重要なポイント
この研究は以下の3つの重要点を含んでいます。
1.
超高速のナノ振動の観測:
- 研究チームは、蝸牛のフック部に位置する有毛細胞が超音波に同期して振動する様子を実証しました。
2.
高調波の感知:
- 超音波の受容は、有毛細胞が可聴域の音に加え、その整数倍の周波数にも反応することが明らかになりました。
3.
超音波聴覚の応用可能性:
- この新しい音受容機構により、ヒトが超音波を理解する能力が難聴の早期診断に役立つ可能性が示されています。
研究の背景
超音波とは、20 kHzを超える高い周波数の音で、通常はイルカやコウモリなどの一部の動物が感知可能とされています。しかし、過去75年以上でも、ヒトが骨を介して超音波を聴くことができる現象が知られていましたが、そのメカニズムは未解明でした。この研究は、超音波が聴覚に与える影響についての理解を深める画期的なものであり、聴覚に対する新しいアプローチを示唆しています。
研究方法
研究チームは、全身麻酔を施したモルモットに対して可聴域を超える超音波を与え、その結果として神経の興奮と有毛細胞からの電流を測定しました。音刺激として側頭骨を介して超音波を知覚できることを確認し、中耳の骨、つまり耳小骨に直接音を与えることによっても超音波を聴取できることが判明しました。これにより、蝸牛がもともと超音波を受容できることが明らかになりました。
新しい受容機構の特定
さらに、先端の光干渉断層撮影装置(OCT)を使用して、フック部での有毛細胞の1000億分の1センチの振動を測定しました。この分析から、有毛細胞は可聴域の周波数だけでなく、その2倍や3倍の高調波にも反応していることが確認されました。このような反応が、超音波の感知を可能にしているのです。
今後の期待
今回の研究結果により、超音波聴覚が有毛細胞の機能と関係することが明らかになり、今後は難聴の早期診断や新たな補聴器の開発など医療分野への応用が期待されます。この発見は今後の研究にも大きな影響を与えることでしょう。
論文情報
この研究成果は、米国科学アカデミー紀要Nexusにおいて2024年7月25日に発表されました。著者陣には、岐阜大学の堀井和広や小川博史、新潟大学の長瀬典子などが名を連ねています。DOI番号は10.1093/pnasnexus/pgae280です。
研究者プロフィール
任書晃教授は岐阜大学大学院医学系研究科で教授を務め、内耳や聴覚に関連する研究を長年行っています。
この新たな発見が、超音波に関する理解や医療現場における適用を促進することを期待しています。