岡山大学、光合成のチラコイド膜に関する新知見
2023年8月31日、岡山大学の学術研究院先鋭研究領域に所属する坂本亘教授のチームが、光合成で重要な役割を果たすチラコイド膜に関連する新たな研究成果を発表しました。
光合成は、植物が太陽光を利用して二酸化炭素を有機物に変換し、その過程で酸素を放出するプロセスです。チラコイド膜は、この反応が行われる細胞内の特定の膜構造として位置づけられ、光エネルギーの効率的な変換に必要不可欠です。チラコイド膜の形成には、VIPP1という専用のタンパク質が関与していますが、その進化的起源については未解明の部分が多く残されていました。
今回、研究チームは原始的なシアノバクテリアの一種であるグレオバクター(Gloeobacter violaceus)に着目しました。興味深いことに、グレオバクターはチラコイド膜を持たないにもかかわらず、VIPP1タンパク質を有していることが発見されました。このVIPP1が持つ特徴的なアミノ酸配列「Vc」に注目し、詳細な解析を行った結果、極限環境に生息する古細菌に見られる配列に類似していることが分かり、このVc配列が膜へのストレス耐性を獲得するために進化の過程で重要な役割を果たしている可能性が示唆されました。
研究の結果、VIPP1とそのVc配列はチラコイド膜を持たない原始的なシアノバクテリアでも存在し、高等植物の葉緑体に導入するとチラコイド膜を形成する能力があることも判明しました。これにより、VIPP1を活用することでチラコイド膜を強化し、植物の環境耐性や光合成の効率を向上させる新たな技術の応用が期待されています。
この研究成果は、科学研究費(学術変革領域研究(A)および基盤研究B)の研究助成により実施され、アメリカの国際科学誌「プラントフィジオロジー」に2025年8月18日付で掲載されました。
岡山大学では、地域と地球の未来を共創する研究を進めており、持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けての取り組みも行っています。今後の研究成果がどのように植物や環境への影響を及ぼすか、非常に楽しみです。