国連安全保障理事会が2016年に医療活動の保護を求める決議2286号を全会一致で採択してから、2026年までの10年という節目が近づいています。この決議には、医療従事者や人道支援スタッフ、医療施設の保護を約束する80を超える加盟国が名を連ねています。しかし、その後の10年間、世界各地では医療機関への攻撃がいまだに続いており、組織としての国境なき医師団(MSF)は、この実態を厳しく指摘しています。
実際、昨年は医療への攻撃により、約2,000人が亡くなったというデータが示されており、これは深刻な人道的危機を引き起こしています。MSFは、パレスチナ、ウクライナ、レバノン、スーダン、ミャンマーなど、戦争や紛争が続く地域で活動しており、この10年で15件の事案において21人のスタッフが命を落としました。世界保健機関(WHO)によると、2025年には1348件の医療施設への攻撃が記録され、1981人の死者が出る見込みです。
国連安全保障理事会の決議から10年が経過した現在、医療への攻撃は以前よりも日常的に発生しており、かつてならありえなかった状況が繰り広げられています。特に、医療活動を保護すると約束していた国々がその責任を果たさず、ただ言い訳するばかりであると、MSFのインターナショナル会長ジャビド・アブデルモネイムは訴えます。
具体的には、シリアやイエメンにおける病院への空爆、ウクライナやパレスチナでの砲撃、さらにはミャンマーにおけるドローン攻撃など、さまざまな形で医療機関が狙われています。また、カメルーンやハイチでは、明示的に救急車であることを示した車両が攻撃の対象となっています。攻撃を行った国々は、誤爆だったと説明したり、保護の対象ではなくなったから攻撃したといった主張をすることが多く、医療従事者はむしろ疑いの目で見られる存在になってしまっています。
医療への攻撃は、短期的には人々の命を脅かし、長期的には地域の医療体制を崩壊させます。医療施設が破壊されることで再建が難しくなり、安全が確保されない限り人道支援団体も活動を断念せざるを得ません。例えばMSFは、2025年にスーダンで85万件の外来診療を実施し、ウクライナでは多くの患者を搬送しましたが、こうした活動が続けられなくなることは、地域の人々にとって大きな痛手となります。
MSFのアブデルモネイムは、国連安保理決議2286号に基づく義務と約束を各国政府が果たし、医療の保護を強化するよう求めています。具体的には、国際人道法に基づく医療従事者や患者は、言葉だけでなく具体的な行動によって守られるべきだと訴えています。
さらに、MSFの日本事務局長である村田慎二郎は、決議の背景にある2015年の米軍によるアフガニスタンのMSF病院爆撃事件を思い起こし、日本政府にも責任を果たすよう求めています。この決議は、国際社会に対して重要なメッセージを発信するものであり、医療への攻撃が続く今だからこそ、その原則を行動で示す必要があると強調しています。主権の尊重とともに、医療の保護は私たちの共同の責任であり、それがいかに重要であるかを再認識させる挑戦が求められています。