ニューロン間の見えないつながりを明らかにする新手法
東京理科大学工学部情報工学科の澤田和弥助教らによる研究チームは、神経細胞(ニューロン)間の因果関係を明確に検出する新たな手法を開発しました。この技術は、従来の方法が限界を抱えていたカオス的な応答を示すスパイク列データを取り扱うための画期的なアプローチです。
研究の背景と重要性
神経細胞は複雑なネットワークを形成し、相互に作用しながら情報を処理します。しかし、その結合のメカニズムや因果関係は長い間不明でした。最近、スパイク列と呼ばれる神経細胞の活動データを無数に記録する技術が進展したことで、因果関係を推定するための新しい手法の必要性が高まっています。
従来法で使用されていた「グレンジャー因果性(GC)」や「伝達エントロピー(TE)」は、主に線形的なデータに特化しており、非線形的な振る舞いに障害がありました。そこで、今回開発された手法は「コンバージェント・クロス・マッピング(CCM)」を元にしたもので、特に非線形データに特化しています。
開発した新手法のメカニズム
この新しい手法では、スパイク列の予測を行うために、神経細胞間のスパイク間隔(Interspike Interval: ISI)に基づいて因果関係を特定します。対象となる発火時刻に最も近い発火時刻を導き、時間的な関連性を確立することで、相互予測精度を用いて因果関係を検出します。
実験では、少数の神経細胞から生成されたスパイク列に対してこの新手法を適用し、因果関係が正確に検出されることを確認しました。この成果は、非線形スパイク列の因果関係の分析における新しい展望を開くものであり、従来困難であった他の分野にも応用が期待されています。
研究の意義と今後の展望
今回の手法は、神経細胞の結合が時間と共に変化する場合や、ランダムなスパイク列においても更なる改善が必要です。今後は、より大規模な神経回路ネットワークに対しても因果関係の推定を試みる予定です。
澤田助教は、「因果関係を明らかにすることで、脳の実効的な結合を推定し、神経疾患や精神的な障害への理解と治療に寄与できればと考えています」と語っています。
本研究の成果は2025年7月28日、国際学術誌「Physical Review E」にオンライン掲載されました。これにより、神経科学の分野における新たな知見の創出が期待されています。