ファンケルが開発したAI技術が細胞内タンパク質を生きたまま解析
株式会社ファンケルは、細胞内のタンパク質発現量を生きたまま観察する新しいAI技術を開発しました。従来の免疫染色法では細胞を固定する必要があり、生きた状態での観察ができなかったため、生体内での動的な変化を捉えることが難しいという課題がありました。
この研究は、細胞を生きたままで画像化する位相差法を用いており、こちらから得られるデータと免疫染色法によって可視化されたデータを機械学習によって解析しています。具体的には、位相差像から免疫染色像を推定するためのAIモデルが構築されました。この技術によって、特定のタンパク質発現量を生きた細胞から推定できる可能性が生まれたのです。
生きた細胞内での変化を追う
この新しい技術を用いて、ファンケルはヒト表皮細胞における分化、炎症、老化、抗酸化に関連するタンパク質の発現パターンを分析しました。AIによる推定と実際の免疫染色結果を比較したところ、両者の間に高い相関関係が確認され、AIが正常に機能していることが証明されました。これにより、位相差画像一枚から複数のタンパク質の発現を同時に推定するモデルの構築が可能になりました。
この技術により、タイムラプス画像として生きたままの細胞内のタンパク質発現の動態変化を観察できるようになり、細胞内で進行するさまざまな現象を解析しやすくなりました。これには細胞の移動やプロセスの変化が含まれており、今後に活用される可能性が期待されています。
研究背景と展望
細胞は私たちの体の中で約37兆個も存在し、個々の細胞が相互に作用しあいながら生命活動を営んでいます。そのため、個々の細胞の動きやコミュニケーションを理解することは重要です。最近では、免疫染色法やライブセルイメージング、多様な次世代シーケンス技術などが登場し、細胞研究は飛躍的に進展していますが、細胞の動きと内部の遺伝子発現を同時に解析することは依然として難しい状況です。
本研究は、顕微鏡撮影とML(機械学習)を利用し、細胞内のタンパク質発現量を生きたまま推定する技術を定義しました。これにより、専門的な知見を有効に活用し、老化などの生物学的メカニズムをさらに深く理解する手助けとなると同時に、新たな治療法や安全性試験、素材成分の有効性試験などにも広がりを持たせることが可能です。
担当者のコメント
この研究を推進したファンケル総合研究所の主任研究員、東ヶ崎健氏は、細胞が織りなす現象を理解するには、細胞が生きた状態でのコミュニケーションを観察することが重要であると述べています。「私たちの生体内では細胞同士が互いに影響を及ぼし合いながら活動しています。この新たな技術を用いることで、細胞老化や他のメカニズム研究へ応用できることを期待しています」とのこと。
今後、ファンケルが開発したこのAI技術は、細胞研究における新しい地平を切り開くものとして注目されるでしょう。