アスペルギルス症の新たな原因菌、A. latusの解明
千葉大学真菌医学研究センターの柴田紗帆助教と高橋弘喜准教授らの研究チームが、アスペルギルス症の国内における新たな原因菌であるアスペルギルス・レイタス(以下、A. latus)を発見しました。これは、過去10年間にわたりヒトのアスペルギルス症を引き起こしている可能性を示唆する重要な研究成果です。研究成果は2025年6月10日付の国際学術誌『Medical Mycology』に掲載されています。
アスペルギルス症の現状
アスペルギルス症は、特に免疫不全の患者において重大な感染症であり、世界中で年間約300万人が罹患しています。その主な原因菌としては、A. fumigatusやA. nidulansが広く知られていますが、外見が似ているために見過ごされがちな「隠蔽種(cryptic species)」の存在が、診断と治療に影響を与えています。
医療現場では、アスペルギルス症に対する適切な診断が求められていますが、A. latusの存在は未知であったため、深刻な問題となる可能性がありました。今回の研究により、その存在が明らかになったことで、診断精度の向上が期待されています。
研究の詳細と成果
研究チームは、2012年から2023年にかけて日本国内で確認された肺アスペルギルス症患者から分離されたA. spinulosporusの23株を再解析しました。その結果、7株(約30%)がA. latusであることが判明しました。これにより、A. latusが日本国内で実際に患者に感染している可能性が示されました。
A. latusは、異なる2種の雑種として生じた「異質倍数体」で、高い遺伝的多様性を持つことが特徴です。これにより、従来の診断法だけでは識別が難しくなっています。一方で、A. latusの細胞に対する抗真菌薬感受性試験では、アムホテリシンBやフルシトシンに対しては感受性が低いことが確認されましたが、アゾール系薬剤には比較的高い感受性を示す傾向がありました。
未来への課題と展望
本研究の成果により、A. latusがアスペルギルス症の原因菌として日本国内に分布していることが明らかとなりました。今後、より正確な診断体制を構築することで、患者に対する抗真菌薬の選択肢が広がり、治療効果の向上が期待されます。また、本研究によりA. latusの進化的起源についても新たな知見が得られ、今後の研究への道が開けました。
このように、A. latusの発見は医療現場におけるアスペルギルス症の診断と治療に革命をもたらす可能性があり、今後の研究活動が注目されます。真菌感染症に対する理解が深まることで、患者の治療方針も変わることでしょう。これからも目が離せない研究分野となっています。