防衛産業の舞台裏に迫る新書『軍産複合体』の魅力とは
日本の安全保障が国際情勢の影響を受け、ますます重視される中、自衛隊と防衛産業の現状を描いた興味深い書籍が登場しました。そのタイトルは『軍産複合体自衛隊と防衛産業のリアル』で、著者は防衛問題研究家の桜林美佐氏です。本書は、最近の防衛費の増加が背景にある中、これまで知られていなかった防衛産業の現実に光を当てています。
防衛費の増加と防衛産業の現実
岸田政権下で、防衛費がGDP比2%を目指し、43兆円という巨額な予算が投じられることが決定されました。特に、台湾有事を見越した安全保障の強化は、多くの日本国民にとっても身近な問題として捉えられています。しかし、その基盤を支える防衛産業は、実は数々の「足かせ」に直面しています。
日本の防衛業界では、自衛隊以外に顧客がほとんど存在せず、低利益率に苦しんでいます。これに伴い、自衛隊と防衛産業間には、かつてないほどの乖離が生じており、多くの企業が防衛事業からの撤退を真剣に考えていることが指摘されています。例えば、住友重工やコマツなどの大企業も、次々と防衛関連事業から手を引いている実情があります。
防衛産業振興の難しさ
近年には、「輸出によって防衛産業を振興する」という意見も耳にしますが、実際にはその実現は非常に困難です。日本の防衛産業には、武器輸出に関する厳しい規制や、「専守防衛」という政策が影を落としており、市場のニーズに応じた流れがなかなか作られないのが現状です。依然として「義理と人情」が支配する日本の防衛業界では、経済原理が浸透するのは難しいと言えます。
自衛隊の現場とその課題
自衛隊の内部でもコンプライアンスが厳守されているため、隊員が軽微な問題で処分されることもあります。これにより、実際の現場が求めるニーズを見逃す可能性が高まっており、官民交流によるイノベーションの試みは、現実的には難しい状況です。
著者の桜林氏は、このような防衛産業の厳しい現実を指摘し、その振興を安全保障政策の一環として位置づける重要性を説いています。現在の状況を打破するために、どのような具体的な対策が考えられるのかを、本書では提案されています。
書籍の見どころ
本書では、自衛隊と防衛産業のリアルな現実を描写した上で、様々な解決策を模索しています。実際に発生した部隊関連のスキャンダルや、そこから派生する問題についても取り上げており、本書を通じて一貫した議論を展開しています。
自衛隊の今後の運用に不可欠な防衛産業の再構築が求められるこの時期に、現実の厳しさを理解し、前向きに取り組むための知識を深めるために、ぜひ手に取ってみて欲しい一冊です。
書籍情報
- - タイトル:軍産複合体自衛隊と防衛産業のリアル
- - 著者名:桜林美佐
- - 発売日:2023年9月19日
- - 定価:990円(税込)
- - ISBN:978-4-10-611059-7
- - 詳細URL:新潮社サイト