宇宙を見据えた革新的な振動計測技術の開発
人工衛星が正確に機能するためには、非常に微細な振動をも計測しなければなりません。国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は、振動センサーを校正する新たなシステムを開発し、注目を集めています。このシステムは、世界最小の振動レベル、すなわち振幅1.4ピコメートルという微小な振動を活用することで、人工衛星搭載用の高感度振動センサーの正確さや信頼性を飛躍的に高めるものです。
開発の背景と必要性
宇宙での人工衛星は、地上に比べて非常に静かな環境にあり、通常は振動が少ないですが、太陽電池パネルの方角を制御する際や姿勢制御の際に微細な振動が発生します。この微小な振動を計測するためには、敏感な振動センサーが必要です。しかし、これらのセンサーは打ち上げ後、地上での修理や交換ができないため、事前にその精度を保証する必要があります。
既存の校正システムは、通常100 m/s²といった大きな振動レベルを使用しており、宇宙環境で必要とされる振動レベルには対応できませんでした。
新システムの特長
産総研では、過去の技術を基に、この問題を解決する新しい校正システムの開発に取り組みました。このシステムでは、信号とノイズを精密に分離する技術、及び自動調整機構の導入がキーポイントです。具体的には、ノイズの中から微小な振動信号を効率的に抽出するために、過去の研究成果を生かしながら新たなフィッティング演算手法を適用しました。また、長時間のデータ取得を自動化し、より信頼性の高い測定を実現しています。
そして、微小振動の特性を確認するために、振動センサーの前にノイズを遮断する机構を設け、さらにレーザーの照射位置を自動的に調整するシステムを導入しました。これにより、微細な信号も確実に取得できるようになり、振動周波数5 Hzから6.3 kHzという範囲において、目標である0.01 m/s²を下回る微小振動レベルでの校正が可能になりました。
実績と今後の展望
この新しい校正システムは、技術試験衛星9号機(ETS-9)に搭載される振動センサーにも活用されます。三菱電機がプライムメーカとして関与し、6個のセンサーの特性を評価。これにより、実際の宇宙環境に近い条件でのセンサーの応答を事前に確認できるという新たなアプローチを提供しました。これにより、人工衛星の運用がより高精度で行えることが期待されています。
今後は、このシステムのさらなる向上を目指し、より微細な振動に対する校正技術を確立していく予定です。これにより、宇宙に限らず、様々な分野での微小振動の計測技術の信頼性向上に貢献していくことでしょう。
最後に、この研究成果は2025年1月8日に発表される予定の論文誌「Metrologia」に掲載される予定です。この技術が宇宙工学の現場に与える影響は計り知れません。さぁ、人工衛星の新しい時代が始まります。