妊娠早期の腟内乳酸菌が妊娠経過に与える影響、研究発表

妊娠早期の腟内乳酸菌が妊娠経過に与える影響

東京都三鷹市に位置する杏林大学の医学部が実施した研究により、妊娠初期の腟内に乳酸菌の一種「Lactobacillus属」が多く存在することが、良好な妊娠経過と強く関連していることが明らかになりました。これは日本人の妊婦を対象にした初めての研究結果です。本研究は、2025年9月10日に英国の科学誌「Nature Communications」に掲載される予定です。

研究の背景

妊娠中の母体のマイクロバイオームは、母親の健康や胎児の成長に大きな影響を与えますが、そのメカニズムは完全には理解されていません。特に、母親の腟内細菌叢が新生児の腸内細菌にどのように影響を及ぼすのか、まだ解明されていない部分が多いのが現状です。

腟内の微生物群は健康状態を反映する重要な指標とされており、この研究ではその中でも「健康なマイクロバイオーム」が妊娠経過にいかに寄与するかを探求しました。

研究方法と結果

杏林大学医学部付属病院で医療に同意した妊婦たちの腟や腸内の細菌を、妊娠12週から出産後1ヶ月まで追跡調査しました。その結果、妊娠早期に腟内にLactobacillus属が多く存在する妊婦は、妊娠が38週以降まで継続する確率が高いことがわかりました。妊娠37週以上を正期産と位置づけると、特に38週以降に妊娠を続けられることは妊婦や新生児にとって重要な要素です。

Lactobacillus crispatusの発見

特筆すべきは、日本人の妊娠中の女性においてLactobacillus crispatusという細菌が多く見られたことです。このL. crispatusは、他国での研究報告との違いがあり、日本特有の腟内細菌構成であることが示されました。遺伝的背景や生活習慣がマイクロバイオームの特徴に影響を与えるため、国や地域により腟内の細菌の種類や割合が異なることがわかります。

母子間のマイクロバイオームの相互作用

研究では、妊娠から出生後の母親と子供の腸内マイクロバイオームの相互作用に関する新たな知見も得られました。母親の腟や皮膚由来の細菌群が新生児の腸内にも見られることが確認され、これが新生児の腸内細菌叢の発展にどのように影響するかを探ることが今後の課題となります。

研究の意義と今後の展望

今回の研究が、母子の健康を促進するための新たな予防医療や治療の指針になることが期待されています。腟内細菌の健康的なバランスが、母体と胎児の健康に良い影響を与える可能性が明らかにされたことは重要です。

医学部消化器内科学教室の久松理一教授は、「この研究によって母親の腟内細菌は人種によって異なること、またその割合が妊娠経過に影響を及ぼすことが示された。今後の追跡調査研究で、腸内細菌叢が新生児の将来の健康にどのように寄与するかを解明していきたい」とコメントしています。