AIとシミュレーションによる半導体材料の革新
最近の半導体市場は技術革新の波が押し寄せており、迅速に新材料を導入する必要性が増しています。そこで、材料開発における新たな試みが進められています。それが、株式会社レゾナックが導入した「ニューラルネットワークポテンシャル(NNP)」技術です。この技術は、人工知能(AI)と第一原理計算を融合させ、シミュレーションのスピードと精度を大幅に向上させるものです。
第一原理計算とその限界
通常、半導体の材料開発には「第一原理計算」という手法が用いられます。これは、物質の基本的な粒子の性質と振る舞いを計算することに基づいており、高い精度を誇ります。ただし、この手法は計算に多大な時間とリソースを必要とするため、特に複雑な化学反応を伴うシミュレーションには向かないという特徴があります。
例えば、CMPスラリーを使った半導体基板の研磨など、数多くの異種材料の界面で起きる化学反応を高精度でシミュレーションするには、膨大なデータと計算資源が欠かせませんでした。これまでの計算手法では、研磨メカニズムの複雑性から、十分な情報を得ることが難しかったのです。
NNP技術とは?
一方、レゾナックが開発したNNP技術は、これを一変させます。この技術は、数千万件にも及ぶデータをAIに学習させることで、第一原理計算に匹敵する精度でありながら、計算速度を劇的に向上させるものです。具体的には、第一原理計算で1,000年以上かかるシミュレーションが、わずか100時間で可能になるとされています。
CMPスラリーによる研磨メカニズムの理解
レゾナックは、このNNP技術をCMPスラリーを使用した研磨工程に応用しました。シリコンウェハーの表面が研磨される際の複雑な界面の挙動を、ナノメートルスケールで可視化することができたのです。これにより、実験だけでは明らかにできなかった研磨メカニズムの詳細を理解することが可能になりました。
周囲環境や加工条件を含む詳細なプロセスが明らかになることで、求められる機能を持つ原料の候補を効率的に見つけることができます。これにより新材料の開発期間を大幅に短縮することが期待されます。
NNP技術の広がり
NNP技術の適用範囲はCMPスラリーにとどまりません。異種材料の複雑な界面や混合など、他の材料分野でも応用される可能性が広がっています。この技術により、材料解析の精度が飛躍的に向上し、新たな素材の発見が促進されるのです。
研究者のコメント
計算情報科学研究センターの奥野好成センター長は、「AIを活用したNNP技術は、最先端の計算科学を生かして新たな材料解析を実現する革新的な技術です。これにより、AI半導体の開発にさらに好影響を与えると確信しています」と語ります。
まとめ
AIと最先端のシミュレーション技術が生み出す新しい時代。この革新は、半導体材料の開発における課題を克服するだけでなく、未来の技術革新を先導する存在として期待されています。レゾナックは、今後もこの技術を駆使して、国内外の半導体メーカーとの共創を進めていく考えです。技術の進歩がもたらす新しい可能性に目が離せません。