AR技術が変える救命講習の未来
2024年9月18日から20日にかけて、京都大学で開催された「ヒューマンインタフェースシンポジウム2024」で、金沢工業大学の情報工学科山本研究室が開発した「視覚的リアリティを考慮したAR救命講習システム」が、優秀プレゼンテーション賞に輝きました。今回の受賞は、約150件の研究発表の中から選ばれたもので、シンポジウムプログラム委員会による厳格な審査を経てのものでした。
受賞したシステムの概要
このARシステムは、心肺蘇生の技術をより現実的に学ぶことができるツールとして設計されました。具体的には、訓練用マネキンに死に際の呼吸や吐血といったリアルな症状をCGで再現し、参加者が実際の心肺蘇生を体験できるようになっています。さらに、センサーを用いて胸骨圧迫の状態をリアルタイムでモニタリングし、適切な技術の習得を助けます。
開発の背景
一般の人々は、心肺停止状態の患者に遭遇することが年々増加しており、約25,000件が報告されています。しかし、実際には救命措置が行われないケースも多く、その中で経済的、精神的な理由から救命講習を受けていない人が約42%に上るという調査結果もあります。特に、心肺停止の状況下での実践的な取り組みが難しいことが課題です。
プロジェクトの目的として、山本研究室では、胸骨圧迫や傷病者の外観に焦点を当てたAR技術による救命講習システムを構築し、より高い臨場感と理解を提供することを目指しました。これにより、受講者が自信を持って心肺蘇生を行えるようになることを期待しています。
システムの詳細
本システムは、訓練用マネキンに表示される心臓や血管の3DモデルをAR技術で視覚化し、正しい圧迫位置を明示します。また、胸骨圧迫の様子を3DCGで再現し、リアルタイムで脳への血液供給の状況も示します。さらには、LIDARという先進技術を使用して、圧迫回数や速度、深度を計測することが可能です。
実際の状況を模した表現
- - 顔面紅潮・蒼白: 症状を訓練用マネキンに重ねて表現
- - 死戦期呼吸: 心停止直後のあえぐような呼吸を再現
- - 嘔吐・吐血のシミュレーション: リアルなアニメーションで表現
- - 出血モデル: 血の流れをアニメーションで強調
これにより、参加者は救命措置を学ぶ際により具体的な体験を得ることができます。
今後の展望
今後は、このシステムを実際の救命講習で試験運用し、その結果を基にさらなる改良を行っていく予定です。救命講習の技術はますます進化しつつあり、このARシステムもその一環として位置づけられています。
金沢工業大学の取り組みは、医療現場での技術革新を促し、多くの人々が心の準備をして、緊急時に行動を起こせるよう導く助けとなることでしょう。これからの展開に是非注目したいものです。