木の香りがうつ病治療の鍵を握る?住友林業とBrainEnergyが「木の心理療法室」で検証
住友林業、BrainEnergy、東京慈恵会医科大学は、うつ病に対する木の効果解明研究を共同で進め、「木の心理療法室」の効果検証を行いました。この研究は、木材を用いた治療環境が、うつ病患者の精神・心理療法にどのような効果をもたらすのかを明らかにすることを目的としています。
木の香り、特に「抑うつ・不安」が強い患者に効果を発揮
研究の結果、「木の心理療法室」では、患者の「抑うつ・不安」の程度が強いほど、木の香りを好む傾向が見られました。これは、木の香りが、精神的なストレスや不安を軽減する効果を持つ可能性を示唆しています。
治療導入・継続を促進する効果も期待
うつ病の治療においては、適切な治療を導入し、継続することが非常に重要です。今回の検証結果から、木質化した環境、特に木の香りは、患者にとって好印象につながることが分かりました。これは、うつ病の治療導入や継続を促進する上で、木の香りが有効な要素となる可能性を示しています。
具体的な検証内容
研究では、東京慈恵会医科大学附属病院精神神経科に通院中のうつ病性障害患者20名を対象に、認知行動療法(CBT)を実施しました。患者は、木質化した心理療法室と通常の心理療法室にランダムに振り分けられ、16週間の治療を受けました。
治療前後における患者の精神状態や脳活動の変化を、ハミルトンうつ病評価尺度や近赤外スペクトロスコピー(NIRS)を用いて測定しました。また、「室内の好ましさ」については、快適さ、香り、温度、空間、明るさといった5つの観点から評価を行いました。
研究結果
ハミルトンうつ病評価尺度の5つの評価項目(抑うつ気分、罪悪感、入眠困難、食思不振、心気症)において、認知行動療法の効果が認められました。
NIRSでは、心理療法室の違いによる統計的な有意差は認められませんでしたが、「室内の好ましさ」の測定において、香りの好ましさは「木の心理療法室」の方が有意に高かったことが分かりました。
香りの好ましさは「抑うつ・不安」が強いほど高い傾向を示し、「香りがよい」と回答する割合が高くなりました。
「室内の好ましさ」の測定項目のうち、香り以外では、心理療法室の違いによる有意差は認められませんでした。
今後の展望
住友林業、BrainEnergy、東京慈恵会医科大学は、今回の研究成果を活かし、木の香りが精神・心理療法に与える影響について、さらなる探求を進めていきます。また、より多くの人々が、木の香りによる癒やし効果を感じられる空間を提供することで、人々の健康増進に貢献していくことを目指しています。
研究の背景
近年、精神疾患は世界的に増加傾向にあり、特に「うつ病」は大きな社会問題となっています。抗うつ薬などの薬物療法は有効な治療法ですが、軽症うつ病では必ずしも薬物療法の効果は高くありません。また、うつ病の回復期には、認知行動療法などの心理療法が有効であることが知られています。
このような背景から、植物や木材などの自然素材が持つ、抑うつ・不安の軽減効果に対する関心が高まっています。「バイオフィリックデザイン」は、自然とのつながりを意識した空間デザインであり、ストレス改善効果が期待されています。
各機関の役割
住友林業: 木材の総合的な活用を目指し、研究開発を進める拠点として筑波研究所を設立しています。筑波研究所では、「木」や「緑」が人の心やからだに与える影響を科学的に検証し、快適な空間づくりに活かしています。本共同研究では、研究計画の作成や木質内装建材・木の香りの環境構築の監修を担当しています。
BrainEnergy: 国内外の医療機関や研究施設と連携し、中枢神経データを解析する実績があります。脳活動と身体の働きをサポートする技術開発や、バイオフィリックデザインとデジタル医療技術による空間構築に取り組んでいます。本共同研究では、研究計画の作成、治療環境の監修構築、データ測定・分析評価を担当しています。
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東京慈恵会医科大学: 1881年に設立された私立医科大学で、患者中心の医療を実践しています。附属病院を中心に、地域医療から高度医療、基礎研究から臨床研究に至るまで、医療・教育・研究を牽引しています。本共同研究では、精神医学講座による研究計画の作成や医学的側面からの評価を担当しています。
研究の意義
本研究は、木の香りがうつ病患者の精神・心理療法に与える効果を科学的に検証した初めての試みです。この研究を通じて、自然素材が持つ癒やし効果を活かした、新しい治療法や空間デザインの可能性が明らかになることが期待されます。