ヒト常在菌の新たな解析の時代
ヒトの健康にとって非常に重要な役割を果たすヒト常在菌の研究が進展しています。早稲田大学の細川正人准教授とスタートアップ企業bitBiome社は、新たに開発したシングルセルゲノム解析技術を駆使して、これまでには難しかったヒト常在菌の個別解析を行い、約3万個の細菌遺伝子を解読しました。この研究は、がんや炎症性腸疾患に関連する患者と健康な日本人被験者51名から得られたデータを基にしています。
研究の概要
本研究の成果として、1.7万個の口腔および腸内細菌の高精度なゲノム情報が含まれるデータセット「bbsag20」が公開されました。このデータセットには、従来のメタゲノム解析では見逃されていた300種以上の新たな腸内細菌の遺伝情報が含まれています。特に、遺伝子の運び屋である可動性遺伝因子を通じて抗生物質耐性遺伝子の伝播を個別の細菌レベルで明らかにし、抗生物質耐性のメカニズムを新たに解釈するための手がかりを提供しています。
新たな解析手法の特徴
今回開発されたシングルセルゲノム解析技術の特徴は、各細菌をゲル中に封入してゲノムを個別に増幅し、分析する点です。この方法により、従来は識別できなかった希少な細菌種の解析が可能になりました。例えば、同じ試料に対する解析において、シングルセル解析によって460種を、メタゲノム解析では327種を得られ、わずか140種が共通していました。この結果は、両手法の補完的な役割を示しています。
講じられる影響
この研究の成果は、医療や公衆衛生に深刻な影響を与える可能性を秘めています。個別化医療の観点から、特定の疾患に関連する細菌種を特定し、新たな治療法を開発する手助けになるでしょう。また、抗生物質耐性遺伝子の広がりを把握し、より効果的な耐性菌対策が可能になります。加えて、環境マイクロバイオームへの応用も考えられ、農業や水質管理の分野でも重要な示唆を提供します。
今後の展望
今後、より多様なサンプル収集を進めることが求められます。特に異なる地域や人種のデータを分析することで、ヒト常在菌の全体像を明らかにし、長期的な観察を通じて疾患との関連を解明していく必要があります。これによって、個別化医療がさらに進化することが期待されます。
この研究は、2024年10月2日に公開された「Microbiome」というオープンアクセス科学誌において発表されています。さらなる詳細は、該当論文をご覧ください。
まとめ
ヒト常在菌の研究は、私たちの健康に深く関わる課題です。新たな解析技術により、これまで見えなかった微生物の世界が明らかになり、今後の研究が待たれます。この研究は個別化医療や抗生物質耐性の解決に向けた重要な一歩となるでしょう。このように、ヒト常在菌に関する新たな知見は、多くの可能性を秘めています。