心不全の遺伝的理解
2025-11-10 14:24:19

心不全の遺伝的メカニズム解明、予後予測の可能性を示唆

心不全の遺伝的メカニズムと未来の医療への期待



近年、心不全は高齢化とともに急増しており、社会にとって深刻な健康問題となっています。このたびの研究成果は、心不全の遺伝的なメカニズムを解明し、発症リスクを予測する新たな道筋を示しました。心不全は虚血性心疾患や非虚血性心不全へ分類され、それぞれ異なる治療アプローチが必要です。特に、心不全の中でも収縮機能が低下する「収縮能低下型」と、拡張機能に問題がある「収縮能保持型」といった複数のサブタイプが存在し、それぞれに異なるリスク因子があることが知られています。

この研究は、千葉大学の伊藤薫教授を中心に、理化学研究所や九州大学などの共同研究グループによって実施されました。日本人と欧州人の心不全患者を対象としたジーノムワイド関連解析(GWAS)により、日本人集団特有の遺伝子座が5つ発見されました。さらに、国際共同解析を通じて合計19カ所の新規遺伝子座が同定され、心不全に関連する特有の遺伝的要因が明らかになりました。

心不全の遺伝的背景



これまで心不全に関する遺伝子研究は、欧米人のデータが中心であり、日本人に特有の遺伝的要素はあまり解明されてきませんでした。しかし、公表された研究結果は、心不全のメカニズムが集団ごとに異なることを示しています。特に、高BMIの人が心不全リスクに影響を及ぼすことも明らかになりました。これは、東アジアの人々が比較的低いBMIでも内臓脂肪が蓄積しやすいことに起因していると考えられています。

研究では、TTN遺伝子に関連する変異も調査され、この変異が心不全の重症化や死亡率上昇と関係があることが明らかとなりました。こうした遺伝子変異は、従来の検査方法では見逃される可能性があるため、新たなリスク予測マーカーとして期待されます。

多遺伝子リスクスコア(PRS)の開発



本研究の重要な成果の一つは、多遺伝子リスクスコア(PRS)の開発です。このスコアは、心不全のリスクを早期に評価するための新たな指標であり、高リスク者を特定することができます。PRSが高い人は、心不全の発症前からにもかかわらず、将来的な死亡リスクが高いことが分かりました。これは、心不全の早期警告システムとしての機能を持っており、個別化された医療へとつながる可能性があります。

今後の展望



この研究成果は、心不全に対する新しい治療法の開発や、個別化医療の実現に向けた重要な一歩です。遺伝子座の発見により、創薬や既存薬の効果を高める研究が進むことが期待されます。また、PRSの実用化により、心不全の発症リスクを早期に特定し、生活指導や定期的なフォローアップを行う体制の構築が可能となります。

将来的には、心不全対策としての研究がさらに進展し、世界中で多くの人々の健康を守るための基盤が築かれることを期待しています。この成果は、日本の医療界に新たな風を吹き込むものであり、心不全に対する理解を深める大きな助けとなることでしょう。

参考文献


本研究の詳細については、科学誌『Nature Communications』に掲載されています。


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