新たな科学のフロンティア、孔を持たない酸化グラフェン
熊本大学産業ナノマテリアル研究所の助教、畠山一翔氏と教授の伊田進太郎氏を中心にした研究チームは、画期的な成果を上げた。彼らは、内部に孔を持たない酸化グラフェンを合成し、それを薄膜として加工することに成功した。これにより、多様な用途に対して期待される水素イオンバリア膜が実現したのである。
酸化グラフェンの特性を見直す
酸化グラフェンは、ナノ素材として多機能性を持ち、さまざまな物体の表面に薄膜を形成できる能力がある。しかし、従来の酸化グラフェンはその構造に孔を持っていたために、水素イオンを迅速に伝導する特性も持っており、イオンバリア膜としての利用が難しいとされていた。今回の研究により、孔のない酸化グラフェンの開発がその常識を覆すことに成功したのだ。
水素イオンバリア特性の革新
新たに開発された酸化グラフェン膜は、これまでの膜と比べて水素イオンバリア特性が最大10万倍に達した。この特性は、厚さ数百ナノメートルのコーティングを施したリチウム箔を水滴から守るのに有効であることが実証されている。また研究結果により、水素イオンが酸化グラフェン内の孔を介して移動していることも確認された。
今後の展望
溶液プロセスによって容易に薄膜が製造できる特性を持つ孔のない酸化グラフェンは、防錆や水素インフラといった新たな分野において広い応用可能性を秘めている。今回得られた水素イオンバリア特性は、従来難しいとされていた用途においても新たな道を示すものであり、さらなる機能開拓が期待されている。研究チームは、これらの性能を活かした実用化を目指し、今後の研究に取り組む予定である。
研究結果の掲載
本研究結果は令和6年8月27日にWileyが発行する科学雑誌『Small』にオンライン掲載された。論文名は『Anomalous Proton Blocking Property of Pore-Free Graphene Oxide Membrane』で、著者には畠山助教や伊田教授が名を連ねている。この新たな研究成果は、酸化グラフェンを応用した新たな材料科学の発展を示す重要な一歩となるだろう。
原著論文はこちらからを参照いただければと思います。