がん患者のY染色体の喪失と放射線治療の関係
最近、順天堂大学の研究チームが、がん患者において放射線治療がY染色体の喪失、いわゆるmLOY(mosaic loss of chromosome Y)と関連していることを初めて示しました。この研究は、がん治療の進め方やその影響について新たな視点を提供するものとなっています。
mLOYとは何か?
mLOYは、男性の血液中においてY染色体が失われている細胞と正常な細胞が共存している状態を指します。この現象は加齢や喫煙によっても引き起こされるとされ、がんや心疾患のリスク因子として知られています。特に、高齢の男性の約40%がmLOYの状態にあるとの報告もあります。さらに、近年の研究ではmLOYががん、心疾患、さらにはアルツハイマー病のリスクを高めるとも言われています。
研究の背景
これまでの研究では、がん患者におけるmLOYの増加が治療によるものなのか、がん自体によるものなのかは不明でした。しかし、順天堂大学の研究チームは、放射線治療がmLOYに与える影響を調査し、ここでのデータが新たな発見をもたらしました。
研究方法と結果
研究者たちは、順天堂医院における前立腺がん患者348名からDNAを抽出し、がん治療法ごとのmLOYの頻度を分析しました。具体的には、局所放射線治療を受けた患者群はmLOY陽性率が13.7%となり、治療を受けていない患者群と比較して有意に高いオッズ比(2.55)を示しました。
続いて、バイオバンク・ジャパンのデータも用いて、他のがん種(肺がん、大腸がん、胃がん)も含む大規模な解析を行い、放射線治療がmLOYの有意な増加に寄与することを確認しました。この研究は、放射線治療のもたらす新たなリスク因子を示唆するものとして、大きな注目を集めています。
mLOYのメカニズム
研究者たちは、放射線治療が骨髄における造血幹細胞に対してDNA損傷を引き起こし、修復が追いつかない結果としてY染色体の喪失を引き起こす可能性があると考えています。特に、放射線治療から1年未満の患者でmLOYの陽性率が約1.7倍に上昇することが確認されており、過去の治療直後にも影響が現れることが示唆されています。
今後の研究方向
この重要な発見を踏まえ、研究チームは今後も放射線治療の影響ががん治療の予後にどのように関連しているのかを追究し、精密医療に貢献していく計画です。研究者は、これまでの解析を続け、新たな知見を報告することで、Y染色体に関連する老化研究の進展を期待しています。
研究チームの一員である小林拓郎助教は、研究を通じて健康寿命の延伸に貢献することへの希望を述べており、今後の研究の重要性を強調しています。
この発見はがん治療における新たなアプローチや理解を生み出す可能性があり、今後の展開に注目です。
まとめ
この研究結果は、がん患者のY染色体喪失に放射線治療が影響を与える可能性を示した初の報告です。今後、がん治療の効果や生存率との関係が明らかにされることが期待されており、がんの治療戦略の見直しにつながるかもしれません。