伝統技法の継承と独自の美
東京都墨田区で生まれた澤井正道は、昭和40年にかんざし職人としての修業を開始しました。彼は中学卒業後すぐに、手切りの糸鋸で土台を作る技術を習得し、その後、金魚の尾びれや紅葉の葉脈の彫刻技術を磨いていきました。そんな彼の人生は、色々な職人の仕事場を訪れる機会が増える中で大きく変わりました。
特に、螺鈿職人の技術に出会ったことで、かんざし作りとは違う魅力に心惹かれ、独学で螺鈿の技法を学びました。15年のかんざし修業を経て、澤井は独自の道を歩み始め、妻の実家がある岩手県に家族で移住。ここで彼は大自然に親しみながら、新たな素材と技法と出会います。
岩手の浄法寺漆は国宝の修理にも使われるほどの品質を誇ります。また、三陸のアワビ貝は、その輝きを持ちながらも独自の深みを持って、澤井の作品に新しい色彩を与えました。これらの素材との出会いは、彼にとって予想外の業の道を開くきっかけとなりました。平成21年には、螺鈿澤井工房を設立し、螺鈿職人としての人生を歩み始めます。
螺鈿澤井工房の魅力
螺鈿澤井工房は、岩手産の漆と貝を用いた独自の作品を制作し続けています。この工房では、他社が製作した土台ではなく、自ら材料を選び、土台作りから仕上げまでを一貫して担当しているため、作品に対する愛情とこだわりが表れています。
澤井は、10年以上丁寧に乾燥された黒檀板を糸鋸で精密に切り出し、伝統を重んじつつも現代的なセンスを融合させたデザインを生み出すことができます。使用している貝は、今では貴重とされる三陸のアワビ貝や多彩な夜光貝など、岩手の自然の恵みを最大限に活かしています。
漆は、厳選された浄法寺漆のみを使用し、何度も塗り重ねて磨き上げることで、独特の艶と深い輝きを放つ作品へと仕上げます。こうして生まれた螺鈿作品は、見るものを驚かせるほどの美しさを誇ります。
実績と新たな挑戦
最近、澤井は岩手県から「螺鈿細工工」としての卓越技能者賞を受賞しました。この栄誉は、長年の努力と伝統技法の継承が認められた結果です。伝統が失われつつある現代において、彼はかんざし職人の技をベースにした新しい螺鈿の技術を後世に伝えようと考えています。
さらに、世界遺産の中尊寺金色堂は、全国的に有名な螺鈿装飾の一例としても知られています。その美しさは多くの人々に影響を与え、岩手の文化を広める助けとなっています。
今後も澤井は、螺鈿の美しさと精緻な職人技を広く伝えるための活動を続けていくつもりです。最近、岩手県内のギャラリーカワトクで「〜いわて三陸 螺鈿の世界〜澤井正道螺鈿展」を開催し、さまざまな螺鈿製品を展示しています。この機会に彼の作品や技術への理解を深めていただければ幸いです。
地域の魅力を伝える
澤井正道は、岩手県の自然の美しさを取り入れ、独自の螺鈿の作品を作り続けています。彼の技術は、単純な工芸品を超え、多くの人々に岩手の魅力を伝える役割を果たしています。彼は今後も、地域の素晴らしさを広め、若い世代へと技術を引き継いでいくことでしょう。メディアの皆様には、ぜひこの物語を広めていただければと思います。