人工股関節ステムの進化
2025-10-28 14:27:37

新しい人工股関節ステムが接合部骨折を大幅に減少?最新研究の成果

新しい技術がもたらす可能性



千葉大学大学院医学研究院の平沢累特任助教を中心とする研究チームは、船橋整形外科病院の老沼和弘院長らと共同で、人工股関節全置換術 (THA) における新しいインプラントの有効性を検証しました。特に目を引くのが「カラー付きハイドロキシアパタイト (HA) ステム」です。この新技術は、術後早期に発生する人工股関節周囲の骨折(POPFF)の発生率を有意に減少させることが示されています。

研究の背景



世界中で約5億人が変形性関節症を患い、その影響は特に高齢者に顕著です。日本においても、約3000万人がこの病気に影響を受けており、運動器障害が介護保険制度における最大の要因となっています。また、変形性股関節症に対するTHA手術の数は年々増加しており、その安全性が求められています。

以前から、THA後の早期POPFFが患者のQOLや生命予後に与える影響が知られていました。しかし、これまでの研究では、ステムのデザインがPOPFFに与える影響についても十分なデータが不足していました。このような状況を踏まえて、今回の研究が行われました。

研究成果



研究では、THA後の早期POPFFの発生頻度を、最も広く用いられている「テーパーウェッジ型ステム」と新たに開発された「カラー付きHAステム」の2種類のインプラントで比較しました。その結果、カラー付きHAステムを使用した場合、POPFFの発生率は0.11%と非常に低く、従来のステムの0.72%と比較しても有意な差が見られました。

なぜ新しいステムが効果を発揮するのか、研究チームは以下の要因を挙げています。
  • - カラーが骨に早期に安定感を提供
  • - 力をうまく分散させる設計による衝撃吸収
  • - 二重テーパー構造により、骨とのフィット感が向上

ただし、術中骨折の発生率に関しては、カラー付きHAステム群(3.49%)がテーパーウェッジ型ステム(2.00%)よりも高い結果となっていますが、早期骨折のリスクを減少させることが優先されることから、全体としては有望な成果と言えるでしょう。

今後の展望



この研究成果により、カラー付きHAステムの使用がTHA後のPOPFFの発生を減少させる可能性が明確となりました。これにより、患者の予後改善や、より安全なインプラント選択に向けた具的な指針が今後求められるでしょう。

今後は、特に高リスクの患者に対する適用や、術中の骨折防止策の強化が期待されています。また、このステムの長期成績や他の手術様式との比較も今後の研究課題となるでしょう。より安全で効果的な人工股関節手術が実現されることが期待されます。

用語解説


  • - 人工股関節全置換術 (THA):傷んだ股関節を人工化する手術です。
  • - ハイドロキシアパタイト (HA):骨と非常に親和性があり、天然の骨成分となじむ素材です。
  • - 変形性股関節症:股関節に影響を及ぼし、歩行障害や痛みを引き起こす病気です。

論文情報


  • - タイトル:Collared fully hydroxyapatite-coated femoral components reduce early periprosthetic femoral fractures in total hip arthroplasty with the direct anterior approach : a matched cohort study
  • - 著者:Rui Hirasawa, Kazuhiro Oinuma, Shigeo Hagiwara, Takamitsu Sato, Yuya Kawarai, Yoko Miura, Junichi Nakamura, Seiji Ohtori
  • - 雑誌名:The Bone & Joint Journal
  • - DOI:10.1302/0301-620X.107B10.BJJ-2024-1494.R1


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