大腸がん組織に潜む免疫抑制の影:CD4-CD8-ダブルネガティブT細胞の役割
近年、がん治療において免疫療法が注目されていますが、がん細胞は巧妙に免疫システムを回避し、増殖を続けていることが課題です。国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の研究グループは、大腸がん組織に多く存在するCD4-CD8-ダブルネガティブT細胞(DNT細胞)が、がん細胞を攻撃する免疫を抑制している可能性を発見しました。
免疫細胞の新たな顔:CD4-CD8-ダブルネガティブT細胞
T細胞は、免疫システムの重要な役割を担う細胞ですが、そのほとんどはCD4分子またはCD8分子のいずれかを発現しています。一方、DNT細胞は、CD4分子もCD8分子も発現していない特殊なT細胞です。これまで、DNT細胞は血液や正常組織に非常に少ない割合で存在することが知られていましたが、その機能については謎に包まれていました。
大腸がん組織におけるDNT細胞の発見
研究グループは大腸がん組織とリンパ節組織を比較し、DNT細胞の分布を調べた結果、大腸がん組織にDNT細胞が有意に多く存在することを発見しました。さらに、DNT細胞はCD8+T細胞から生じているものの、細胞傷害活性(がん細胞を攻撃する機能)を失っていることが明らかになりました。
免疫抑制因子としての可能性
興味深いことに、がん組織内のDNT細胞数の割合は、細胞傷害活性を持つT細胞数と負の相関を示しました。これは、DNT細胞ががん組織において、がん細胞を攻撃する免疫を抑制する役割を果たしている可能性を示唆しています。
新たな治療法開発への期待
今回の研究成果は、大腸がんの免疫療法開発において、新たなターゲットとなる可能性を示唆しています。DNT細胞の働きを抑制することで、がん細胞に対する免疫攻撃を強化し、治療効果を高められる可能性が期待されます。今後、DNT細胞を標的とした新たな治療法の開発が期待されます。
研究の意義
この研究は、がん組織におけるDNT細胞の役割を明らかにすることで、がんの免疫療法開発に向けた新たな知見をもたらしました。DNT細胞の特性をさらに深く理解することで、より効果的ながん治療法の開発につながる可能性があります。