新型コロナウイルス変異株、下水解析から新たに発見
新型コロナウイルスの変異株に関する新たな研究成果が発表されました。金沢大学理工研究域地球社会基盤学系の本多了教授を筆頭に、新潟大学大学院自然科学研究科の阿部貴志教授、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所の有田正規教授らが参加する合同研究グループは、下水中に存在する新型コロナウイルスの遺伝子情報を詳細に分析し、地域特有の変異株やその亜系統の出現を明らかにしました。この研究成果は、2025年5月28日に米国科学誌『PLOS One』に掲載される予定です。
研究の背景
新型コロナウイルスの変異株の動態を把握するため、通常は臨床検体に基づくゲノムサーベイランスが行われますが、これには発症者の数に依存するという限界があります。そこで、研究グループは下水を対象にしたゲノム疫学調査を行い、都市単位での流行株の検出や局所的な変異の把握を目指しました。
研究成果の概要
この下水ゲノム疫学を用いた研究では、石川県小松市と静岡県浜松市の下水から取得した遺伝子情報を分析。新型コロナウイルスの変異として、国内では未報告の「XBT」変異株を発見しました。また、変異株の中には、特定のSタンパク遺伝子上でのストップコドンやフレームシフトといった特徴的な変異が含まれていることも確認されました。このような詳細な変異解析により、流行株の変遷やウイルス進化のダイナミクスをより深く理解する手がかりが得られました。
例えば、小松市ではXBT変異株のほかに、17週間にわたりBA.5系統の流行が観察され、変異の一部は従来の臨床サーベイランスでは確認が困難なものであることが示されました。これにより、下水中のウイルスが地域特有の進化を示していることが浮き彫りになりました。
今後の展開
本研究により、下水から収集したウイルスゲノムを用いて地域単位での変異株の動きが可視化され、これが将来的にはパンデミックの予測や感染症の制御に役立つことが期待されています。具体的には、下水中のゲノム解析を通じて変異株の流入時間や定着期間の違いを把握でき、公衆衛生対策の迅速な実行につながるでしょう。
この研究は、JSTのプロジェクトや科研費、企業からの助成を受けて実施されており、学際的な研究の重要性が再確認されています。
参考文献
掲載される論文の詳細として、雑誌名は『PLOS One』で、論文タイトルは「Dissemination of Local Sub-Variants of SARS-CoV-2 Detected by Detailed Mutation Analysis in Wastewater-Based Epidemiology」です。著者はRyo Honda、Takashi Abe、Tomoya Babaなどの専門家たちであり、ウェブ上での査読付き掲載が期待されています。
このように、下水を通じた新型コロナウイルスの研究は、感染症の監視・制御に向けた新たな道を開く可能性を秘めています。