高齢心房細動患者のフレイル進行と死亡リスクに関する新たな知見
慶應義塾大学 内科学教室(循環器)の香坂 俊准教授と東京大学 医療品質評価学講座の中丸 遼特任研究員らは、静岡社会健康医学大学院大学との共同研究で、静岡県国民健康保険診療データベース(SKDB)を用いた大規模解析の結果を発表しました。
この研究では、比較的多く見られる不整脈である心房細動患者に注目し、フレイル指標の経年的な変化と死亡リスクの関係について調査しました。その結果、心房細動患者においてフレイル指標が経年的に進行し、死亡に至るケースの多くで、前年のフレイル指標が大幅に悪化していたことが判明しました。
一方で、心房細動患者では塞栓症や出血合併症といった合併症が死亡リスクに影響すると懸念されていましたが、この高齢者を主体とするデータベースでは、そうした合併症が直接的な死因となるケースは限定的でした。
本研究グループは、この結果から、大規模診療データを活用することで、心房細動患者の個別予測を行い、より適切な医療を提供できる可能性があると結論付けています。将来的には、フレイル指標などの情報に基づいて、患者一人ひとりに合わせた治療法や予防策を検討することが期待されます。
本研究成果は、2024年6月19日に国際学術雑誌の『Circulation: Cardiovascular Quality and Outcomes』電子版に掲載されました。
研究の詳細
今回の研究では、静岡県国民健康保険診療データベース(SKDB)を用いて、心房細動患者約10万人を対象に、フレイル指標の経年的な変化と死亡リスクの関係を解析しました。フレイル指標には、歩行速度、握力、身体活動量、認知機能、栄養状態などが含まれています。
解析の結果、心房細動患者では、フレイル指標が経年的に悪化するほど、死亡リスクが高くなることが明らかになりました。特に、前年のフレイル指標が大幅に悪化した患者では、死亡リスクが有意に高くなっていました。
また、心房細動患者で懸念される塞栓症や出血合併症は、死亡リスクに影響を与えるものの、この高齢者を主体とするデータベースでは、直接的な死因となるケースは限定的でした。
今後の展望
本研究グループは、今回の研究成果を踏まえ、大規模診療データを活用した心房細動患者の個別予測システムの開発を目指しています。将来的には、フレイル指標などの情報を用いて、患者一人ひとりに合わせた治療法や予防策を検討することで、心房細動患者の予後改善に貢献したいと考えています。