がん転移抑制に向けた新たな手法
信州大学と岐阜大学の共同研究グループが、がん転移を抑制するための新しいアプローチを提案しています。この研究は、短鎖合成RNAと呼ばれる独自に化学修飾されたRNAを用いて、抗転移細胞を活性化し、がん細胞の転移を抑えるというものです。
研究の背景
がんは全世界で広く存在し、多くの人々に影響を与えています。がんが成長すると、遠隔の臓器に転移することが多く、特に転移ががん死因の90%を占めると言われています。このため、がんの転移を防ぐための治療法の開発が急務です。
転移前ソイルと抗転移免疫
研究によると、がんが転移する前に、周囲の環境が「転移前ソイル」として整えられることがあるとされています。この転移前ソイルには、細胞外メッセンジャーRNA(mRNA)が含まれ、がんを抑制する抗転移細胞を活性化します。特に、研究者たちは、特別な配列を持つmRNAが免疫細胞の受容体に結合し、がん転移の抑制を促すことを発見しました。
短鎖合成RNAの効果
この研究では、合成した短い修飾mRNAを体外から投与し、抗転移細胞を活性化する試みが行われました。実際にマウスモデルにおいて、転移の抑制が確認されています。また、がん患者から取得した細胞も使用し、合成修飾mRNAによって活性化することで、ヒトのがん細胞に対する抑制力が強化されました。これにより、従来の治療法に比べて期待される効果がさらに高まっていると言えます。
研究成果の意義
研究者たちの試験では、合成mRNAを数回投与しても、副作用が見られず、他の治療法に比べて安全性が高いことが示されています。こちらの結果は、合成mRNAががん治療の新しい選択肢となる可能性を示しております。特に、がん患者に対する免疫療法としての可能性が注目されています。
今後の展望
今後は、短鎖合成RNAを用いた抗転移薬のさらなる開発が進む予定です。転移を抑えることががん治療において極めて重要であるにもかかわらず、現在効果的な薬剤が少ない中で、本研究の結果は非常に大きな可能性を秘めています。これからの研究と実用化が期待されます。
研究成果の詳細
この研究は、2025年2月25日19:00(日本時間)にシュプリンガー・ネイチャー社の学術誌Nature Communicationsにオンライン掲載される予定です。論文を通じて、さらに詳細な情報を得ることができるでしょう。興味のある方はぜひご確認ください。
文献情報
- - 論文タイトル: Synthetic short mRNA prevents metastasis via innate-adaptive immunity
- - 著者: Hikaru Hayashi, Sayaka Seki, Takeshi Tomita, Masayoshi Kato, Norihiro Ashihara, Tokuhiro Chano, Hideki Sanjo, Miwa Kawade, Chenhui Yan, Hiroki Sakai, Hidenori Tomida, Miyuki Tanaka, Mai Iwaya, Shinsuke Tak, Yozo Nakazawa, Yuji Soejima, Yoshihito Ueno, Sachie Hiratsuka
- - 掲載誌: Nature Communications
- - DOI: 10.1038/s41467-025-57123-y
- - 論文掲載URL: Nature Communications