宇宙ビジネスを支えるロケット技術:リユース・ロケットの動向と今後の展望
宇宙ビジネスは、通信、観測、旅行、資源開発など、多岐にわたる分野で成長が期待されています。経済産業省によると、世界の宇宙産業規模は約54兆円に達し、日本政府も2030年代に市場規模を倍増させる目標を掲げています。
これらのビジネスを推進するためには、ロケットによる物資の宇宙輸送が不可欠です。ロケット開発には、燃料の貯蔵、推進エネルギーへの変換、高精度な位置・速度測定、リアルタイム通信制御、メカトロニクスなど、多くの技術領域が密接に関わっています。
ユーザーは、ロケットに安全・確実な輸送、低価格、短納期を求める一方、近年では環境への配慮も重要視されています。残留燃料の投棄や製造・推進に伴う環境負荷の低減、スペースデブリの発生抑制など、持続可能な技術開発が求められています。
リユース・ロケット:コスト削減と環境負荷軽減の鍵
ロケット技術の主要な要素として、推進(エンジン)、マテリアル、形状設計、燃料、システム制御、処理(回収)技術などが挙げられます。打ち上げ価格の低減は宇宙へのアクセス拡大に繋がり、特に小型衛星や地球低軌道への打ち上げ需要が増加しています。
環境規制の強化も見据え、本記事ではコストと環境負荷を低減し、スペースデブリの発生抑制を実現する技術として、ロケット機体の回収技術「リユース・ロケット」に焦点を当てます。
スタートアップ企業の動向:リユース・ロケットへの投資熱
アスタミューゼ株式会社が所有するイノベーションデータベースを用いて、ロケットビジネスに関わるスタートアップ企業を分析しました。スタートアップ企業は、革新的な技術で社会や既存企業にインパクトを与える存在であり、その資金調達額は社会からの期待値を反映しています。
データベース分析の結果、近年、ロケット関連のスタートアップ企業において、「Reusable(再利用可能)」や「Landing(着陸)」といったキーワードの出現頻度が増加していることが明らかになりました。これは、リユース・ロケットに対する高い関心を示唆しています。
グラントの動向:エンジン技術への注力
次に、研究開発資金であるグラントの動向を分析しました。グラントデータは、論文発表前の段階で、未来の実装に向けて研究開発が進められていることを示しています。
分析結果では、「Nozzle(ノズル)」というキーワードの出現頻度が高いことが確認されました。これは、ロケットエンジンの再利用技術に関するプロジェクトが多く存在することを示しています。グラント関連文書では、エンジンの回収後のメンテナンス工程の削減が課題として多く挙げられており、リユース・ロケット開発におけるエンジンの重要性が浮き彫りになっています。
グローバルな取り組み:EUの積極的な投資
EUは、再生可能ロケットに関する4000万ドル規模の巨額プロジェクトを採択するなど、リユース・ロケット技術開発に積極的に投資しています。これは、EUが環境・社会・ガバナンス(ESG)を戦略的に推進し、国際的なスタンダードを確立しようとしていることを示しています。リユース・ロケット技術への投資は、持続可能な宇宙開発を推進するための重要な戦略と捉えることができます。
リユース・ロケットに向けた展望
リユース・ロケットに関わるスタートアップ企業には多くの資金が集まり、研究プロジェクトには巨額の投資が行われています。しかし、再利用の手法はまだ確立されていません。
スタートアップ企業のキーワード分析からは、部品の着陸が試みられていることがうかがえますが、グラントでは機体回収よりもエンジンの回収とメンテナンスに注目が集まっています。エンジンの再利用は、機体の再利用よりも開発に時間を要すると考えられます。
EUによる巨額の投資を踏まえると、再利用可能なロケットに適したエンジン製造とメンテナンス技術は、将来的にESGの観点からもビジネスにおいて重要な技術になると考えられます。
さらなる分析の可能性
アスタミューゼでは、ロケット技術以外にも、様々な先端技術/先進領域における分析を行っています。本レポートでは分析結果の一部を公開しました。
アスタミューゼの分析は、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築する上で、精度の高い将来予測や機会と脅威の把握を可能にします。また、企業レベルでのプレイヤー分析やキーパーソンの探索など、具体的なアウトプットを提供することも可能です。