西岸地区における厳しい人道危機
パレスチナのヨルダン川西岸地区では、4万人以上の住民が避難を余儀なくされ、適切な生活環境や医療へのアクセスを失っています。2025年1月にガザ地区での停戦が発表された後、イスラエルは西岸地区で「鉄の壁」作戦を展開。この作戦により、パレスチナ人は強制移動を強いられ、極めて不安定な状況に置かれています。国境なき医師団(MSF)は、この状況を深刻に受け止め、即時の行動を求めています。
強制移動の現実
MSFのオペレーション・ディレクターであるブリス・デルビンヌ氏は、「この規模での強制移動や難民キャンプの破壊は、数十年ぶりの出来事です」と述べています。西岸地区北部のジェニン難民キャンプにおいて、イスラエル軍によってキャンプの入口が封鎖され、多くの家屋やインフラが破壊されました。このため、住民は帰る場所を失い、キャンプは廃墟と化しています。
昨年10月以降、ガザでの紛争が激化して以来、パレスチナ人に対するイスラエルの暴力行為は増加しています。世界保健機関(WHO)の報告によると、西岸地区でのパレスチナ人の死亡者数は930人に達し、その中には187人の子どもが含まれています。
医療へのアクセスが阻害される
現地のMSFチームは、医療へのアクセスが著しく妨げられている状況を確認しています。さらに、イスラエルによる医療従事者や患者への弾圧も目立っています。この事態は、ガザでの停戦とイスラエルの「鉄の壁」作戦開始以来、ますます悪化しています。国連人道問題調整事務所(OCHA)のデータによれば、ジェニン、トゥルカレム、ヌールシャムスの三つの難民キャンプは事実上無人となり、40,000人以上のパレスチナ人が強制的に移動させられています。
避難したパレスチナ人の一人であるイッサム氏(55歳)は、「イスラエル軍が家を襲撃して退避を命じました。何も持ち出すことができず、ただ出て行くように言われただけで、この苦痛を言葉で表現することはできません」と語っています。このような衝撃的な出来事は、彼と彼の家族に深い心理的痛手を与えています。
ストレスと心の健康問題
移動や攻撃の恐怖から、多くの住民は深刻なストレスや不安、うつを抱えています。MSFの地域健康教育担当者であるムハンマド氏は、「住民たちは自分の家がどうなったのかも知らないままで、人生の目的すら見失っています」と指摘しています。ドローンが上空を飛ぶ中、住民は避難するよう命じられる状況が続きます。
MSFの支援活動
MSFは、これまでに三つの難民キャンプでの医療支援を行ってきましたが、安全リスクや住民の避難により、活動内容を変えています。現在、トゥルカレムとジェニンの地域で移動診療を行い、糖尿病や高血圧といった慢性疾患、呼吸器感染症、骨格筋疾患を抱える患者への治療を行っています。
また、避難を余儀なくされた人々を支援するため、衛生用品キットや食料を配布。加えて、ジェニン地区の主要病院での給水活動を通じて、軍事作戦の影響で発生している水不足の補填も行っています。
MSFは緊急ニーズに取り組んでいますが、強制移動の深刻さに対して国際社会の支援は不十分であり、西岸地区の人道状況はますます厳しさを増しています。