白亜紀前期の海洋無酸素事変に関する新たな理解
近年、科学者たちが白亜紀前期の海洋無酸素事変(Oceanic Anoxic Event、OAE)に関する研究を進め、OAEの影響が及んだ範囲が新たに浮き彫りになってきました。特に注目されるのは、北海道の常呂帯が持つマンガン酸化物鉱床の形成過程とその環境条件です。これは、OAEの最中でも、遠洋の深海が酸素に満ちていたことを示しています。
背景と問題提起
地球史を振り返ると、OAEは複数回にわたって発生しており、いずれも急激な温暖化と関連づけられてきました。特に、白亜紀前期のOAE 1aは注目すべき現象です。この時期、無酸素状態が遠洋や深海にまで及んでいたかという問題が従来より未解明でした。しかし、近年の研究によってその理解が進み、有意義なデータが得られました。
常呂帯における研究
常呂帯は北海道の北東部に位置し、ジュラ紀から白亜紀に形成された堆積物や火成岩が分布しています。ここには鉄酸化物鉱床とマンガン酸化物鉱床があり、これらの化学組成の解析によって形成過程が解明されつつあります。研究では、オスミウム(Os)同位体比の分析が重要な役割を果たしました。
鉄酸化物鉱床の形成
鉄酸化物鉱床は中期ジュラ紀のカロビアン期に、中央海嶺での熱水活動によって形成されたことが判明しました。この期間は、急激な温暖化が起きる前の時代であり、火山活動が盛んに行われていたため、二酸化炭素の放出が増えていたと考えられます。
マンガン酸化物鉱床の形成
一方で、マンガン酸化物鉱床は前期白亜紀に海洋島での熱水活動によって形成されたとされており、その年代はOAE 1aの発生前後にあたります。特に、OAE 1aの発生中にも酸素に富んだ環境が維持されていたことが確認され、これが生態系や海洋循環にどのように影響を与えたかを評価する上で重要です。
研究の意義
本研究の結果は、OAE 1aの規模を再考する必要性を示唆しています。温暖化による生物生産の増加や有機物の分解が進んでも、遠洋域の深海が酸素的であった点は、OAEの理解に新たな視点を提供します。これは、当時の環境や気候変動を評価する上で極めて重要なデータです。
終わりに
千葉工業大学や東北大学、東京大学が協力したこの研究は、地球の過去の環境について新たな知見をもたらし、現在の温暖化問題に対する理解を深める手助けとなるでしょう。今後、さらなる研究が進むことに期待が寄せられています。