はじめに 近年、「ネイチャーポジティブ」という概念が浸透しつつあり、その背景には自然資本の傷害が広く認識されていることがあります。人間の活動が自然に及ぼす影響が深刻化する中で、単に被害を軽減するだけではなく、自然を改善する必要性が高まっています。このような状況を背景に、2023年に国際自然保護連合(IUCN)が発表した「ネイチャー・ポジティブ・イニシアチブ」は、2030年までに自然の損失を止め、2050年までにその完全な回復を目指すもので、注目を集めています。
ネイチャーポジティブの現状 ネイチャーポジティブに関する研究や技術の動向は、非常に多様であり、アスタミューゼのデータベースをもとに分析すると、2003年から2023年までの間に関連する特許が3件、科研費が41件、論文が138件、スタートアップが6件という結果が出ました。これは、ネイチャーポジティブ関連の研究が急速に進展している証拠とも言えますが、これらが全ての情報を網羅できているわけではありません。状況把握には広範な視点が必要です。
ポジティブの定義 ネイチャーポジティブにおける「ポジティブ」とは一体何を指すのでしょうか? 具体的には、自然にポジティブな影響を与える狭義の技術だけでなく、ネガティブな影響を最小限にする広義の技術、さらには自然への影響を測定・評価するモニタリング技術まで、幅広く考える必要があります。再生可能エネルギーの利用による化石燃料の削減なども、この議論において異なる見解が存在します。環境省が進めるネイチャーポジティブ経営には、「負荷の低減」が含まれ、このようなアプローチが期待されます。
ネイチャーとは何か 次に、「ネイチャー」についての考察です。自然資本の考え方は、地域住民や企業、政府などによって異なるため、多くの価値観があります。ここでは、自然関連のリスクや機会を企業や金融機関が認識するためのTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のフレームワークを取り上げます。TNFDによれば、自然資本に対する影響は、気候変動や土地利用の変化、汚染の除去、資源の再生、侵略的外来種の防疫に分類されます。これにより、幅広い視点から自然への影響を理解し評価することができます。
ネイチャーポジティブの構造化 ネイチャーポジティブを理解するためのツールとして、3つの視点(狭義のポジティブ、広義のポジティブ、モニタリング)を5つのインパクトドライバ―(気候変動、土地利用の変化、汚染、資源利用、外来種防疫)で分析する枠組みを提案します。これはネイチャーポジティブに関する深い理解を促進するものです。このレポート全6回で、各インパクトドライバーに関する最新情報と将来予測を提供し、結果として関心を持つ方々にとって重要な考察を展開します。
まとめ サステナビリティの課題は、現状を改善するためのボトムアップのアプローチでは困難とされ、より明確な理想や目標を設定し、そこに到達するための逆算的アプローチが求められています。特に、ネイチャーポジティブはその複雑さゆえに投資や政策面でも新たな事業機会を生む可能性が高いとされます。次回以降のレポートでは、各インパクトドライバ―についての詳細を分析し、各技術の現状と将来の機会についての洞察を提供していく予定です。
著者:アスタミューゼ株式会社 源 泰拓 博士(理学)
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