新しい脂肪肝疾患リスクを示すALT値と奈良宣言の影響を調査
近年、肥満人口の増加とともに代謝異常関連の脂肪性肝疾患(MASLD)の発症が世界的に懸念されています。このため、日本肝臓学会が提唱した「奈良宣言2023」は、健康診断におけるALT(alanine transaminase)値の重要性を強調し、特にALT値が30を超えた場合は専門医の受診をすすめるとしています。
研究の背景
この度、岐阜大学の山本眞由美教授と三輪貴生医師の研究チームが、647名の大学職員を対象に健康診断データを分析し、ALT値が脂肪性肝疾患の特定にどれほど有効かを探求しました。研究の結果、年齢中央値46歳の参加者のうち28%がMASLDを有し、特に男性の割合が高いことが明らかとなりました。
本研究において、ALT値が上昇するに従いMASLDのリスクも増加することが示唆され、30以上のALT値がリスクの指標として注目されています。特定のALTのカットオフ値が29 IU/Lと設定され、これを基に早期発見が期待されます。
研究方法
研究は、参加者に腹部超音波検査を行い、MASLDの診断を行う一方で、ALT値を含む様々な生化学的指標を分析しました。ALT値の高い群はMASLDを有する場合が多く、血液中のALTの上昇が肝疾患のリスクを示す重要なバイオマーカーであることがわかりました。さらに、RCS解析による統計的評価では、ALT値の上昇がMASLDのリスクを有意に引き上げると確認されました。
研究の成果
研究の成果はJGH Open誌で発表され、ALT値が30を超える場合の定期健診の重要性が再確認されました。特に、日本の肝臓関連学会が強調する「奈良宣言2023」は、健康診断を通じて肝疾患の早期発見に貢献しており、脂肪性肝疾患の発症を防ぐ可能性があることが示されています。具体的には、ALT値が29 IU/Lを超える場合には、MASLDの可能性が高いとされ、その場合は生活習慣の改善や専門医の受診が推奨されています。
また、FLI(Fatty Liver Index)やHSI(Hepatic steatosis index)といった他の指標もMASLDの同定において有用であり、特にFLIは男女間でのカットオフ値の差異を考慮することが重要であることも指摘されています。これらの指標を適切に活用することで、より効率的に脂肪肝疾患のスクリーニングが可能になるでしょう。
今後の展望
今後は、ALT値によるMASLDの早期発見がさらなる健康寿命の延伸に寄与すると期待されています。生活習慣の見直しや食事改善が促進され、多くの人々が健康的な生活を取り戻すことが期待されます。さらに、研究者たちの調査結果は他の疾患領域にも適用可能であり、さらなる研究が進むことが望まれます。
このように、奈良宣言2023は脂肪性肝疾患による健康問題に対する新たな取り組みを通じて、社会全体の健康を向上させる一助となることでしょう。