老化が進むことで血小板産生能力が低下するメカニズム
千葉大学大学院医学研究院の研究チームが、iPS細胞由来の血小板前駆細胞がどのように老化し、血小板を産生する能力が低下するのかを明らかにしました。この新たな知見は、医療現場での血小板の供給手法において重要な役割を果たすと期待されています。
研究の背景
現代社会において少子高齢化が進む中、血小板輸血製剤の安定供給が求められています。千葉大学の研究チームは、iPS細胞から作る巨核球を利用した血小板の製造技術を開発し、臨床試験を行ってきました。その過程で、製造された巨核球には不均一性が存在し、免疫特性を持つ亜集団が血小板産生を妨げることが判明しました。この原因とそのメカニズムの解明が急務とされていました。
研究成果の詳細
1. 血小板産生と細胞周期の関係
研究チームは、巨核球の長期培養に伴う血小板産生能の低下を観察しました。1か月未満の短期培養では細胞の活動性が高い一方で、長期培養では細胞が休止状態に入ることが確認されました。この結果、血小板産生には細胞周期の活発な状態が必要であり、老化がこのプロセスに悪影響を与えることが示唆されました。
2. KAT7の重要性とその低下
特に注目されたのはリジンアセチル基転移酵素7(KAT7)です。このタンパク質は、染色体の安定性と遺伝子発現を制御する役割を持っています。長期培養された巨核球において、KAT7の発現が低下し、さらに血小板産生能も著しく減少していることが確認されました。これにより、KAT7が血小板の産生において重要であることが再確認されました。
3. 免疫反応の活性化
KAT7の抑制が免疫応答に与える影響についても研鑽されました。KAT7を人工的に抑えることで、活動状態の細胞が減少し、休止状態の細胞が増加することが確認されました。この時、免疫に関連する遺伝子の発現が上昇し、炎症性サイトカインの分泌が増えることが明らかになりました。
4. cGAS-STING経路の関与
さらに、KAT7の機能低下が染色体の安定性を損ない、cGAS-STING経路を活性化させることも示されました。この経路が活性化されると、免疫応答が強化され、炎症性物質が多く分泌されることが観察されました。これにより、周囲の正常な細胞にも悪影響を与え、結果として血小板産生が抑制されるメカニズムが立証されました。
5. 炎症性サイトカインの影響
最後に、免疫傾斜のある巨核球が分泌する炎症性サイトカインが、血小板の産生をどのように抑制するかも検証されました。これにより、血小板前駆細胞の休止状態が引き起こされ、組織全体の血小板産生能が低下することが示されました。
今後の方向性
この研究結果は、iPS細胞由来の血小板製造における品質管理方法の開発に大きな影響を与えると期待されます。KAT7の発現レベルが品質評価のマーカーとして非常に有用であると考えられます。今後は、KAT7の活性を保つ方法や、新たな培養条件の開発が求められています。この成果は、他の細胞治療製品の品質管理にも応用できる可能性があり、再生医療全体への貢献が期待されています。
この研究は、iPS細胞を利用した次世代の医療技術の基盤を作るものとして、注目が集まります。