世界初の一次元状カーボンチェーン合成技術
名城大学理工学部の研究チームが、直径0.8nm以下の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)内に高収率で一次元状カーボンチェーンを合成する革新的な技術を発表しました。この研究は、2025年8月3日、オランダの科学出版社Elsevier B.V.が発行する『Chemical Physics Letters』で論文が掲載され、注目を集めています。
研究のポイント
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本研究のハイライトは、炭素原子が直線状に連なったカーボンチェーンをエネルギー的にもっとも安定な状態でSWCNTに内包することができた点です。この新たな手法により、カーボンチェーンの合成収率が飛躍的に向上しました。具体的には、前駆体分子の濃度を適切に調整することで、直径が0.8nmに満たない細径SWCNT内において、カーボンチェーンの高収率合成を実現しました。
研究の背景
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昨今、カーボン素材はその硬さや電気的特性が優れていることから、さまざまな応用が期待されています。しかし、カーボンチェーンは大気中で安定に存在することが難しく、その特性を把握することが困難でした。これを克服するために、SWCNTの中心部にカーボンチェーンを内包する研究が進められてきましたが、これまで報告されたのは直径1.0nm以上のSWCNTに対する高収率の合成のみでした。
新たな合成方法
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今回の研究では、炭素棒電極間のアーク放電を利用して生成された水素末端ポリイン分子の濃度を調整し、これを80℃で24時間保持した高圧反応器に入れてSWCNTに混合しました。このアプローチにより、直径0.78nmの細径SWCNT内でのカーボンチェーンの形成が成功しました。
結果と考察
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ラマン分光測定による結果により、ポリインの濃度を高めることでSWCNT内に内包されるカーボンチェーンの量も増加することが確認されました。特に、最大3を越えるL/G比が得られたことからも、この研究の成功が強く示唆されています。この値は、これまでの研究の中で最も高いものとなり、カーボンチェーンが高収率でSWCNTに内包されていることを証明しています。
未来への期待
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この新たな合成法が確立されたことで、今後はカーボンチェーンを大量に生成できる可能性が広がりました。これにより、高収率で合成されたカーボンチェーンの特性解析がさらに進み、様々な応用へと研究が発展することが期待されます。名城大学ナノマテリアル研究センターの助成を受けたこのプロジェクトは、未来の材料科学に新たな扉を開くものになるでしょう。
用語解説
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- - 単層カーボンナノチューブ(SWCNT): 炭素原子のみから成る円筒状の構造で、一層から成るものを指します。
- - カーボンチェーン: 炭素原子が直線状に連なった構造で、力学的特性が非常に高いです。
- - 水素末端ポリイン分子: 炭素原子が鎖状につらなり、両端に水素原子が結合した分子で、SWCNT内に内包されやすい特性を持っています。
この研究の成果は、カーボン材料のさらなる発展につながると期待されており、今後の動向に注目が集まります。