ウスバシロチョウの伝播ルートと日本国内の遺伝的多様性を探る
ウスバシロチョウ(ウスバアゲハ)は日本列島に広く分布している美しい蝶であり、その生息地によって独特の変異が観察されます。このため、長年にわたって昆虫愛好家や研究者たちの興味を引いてきました。去る2024年12月30日、岐阜大学の教授と大学院生たちから成る研究チームがこのウスバシロチョウの起源と日本国内の地域性について高解像度の遺伝解析を行い、その詳細な成果を発表しました。
研究の背景
日本の生物種の分布は大陸からの渡来に大きく依存しています。ウスバシロチョウもその一例で、以前よりその伝播ルートについては様々な仮説が存在しました。研究チームは、 ウスバシロチョウのDNAを用いて、遺伝的多様性の解析を行いました。この調査により、ウスバシロチョウが300万年前に中国大陸系統から分岐し、朝鮮半島または黄海地方を経由して日本に到達したことが示されました。
分析方法と重要な発見
研究で用いられた手法は、ミトコンドリアDNAと核遺伝子に基づく3067のSNP解析です。この詳細な解析により、ウスバシロチョウは分岐してから、100万年前には中国地方と四国地方が別系統に進化し、さらに60万年前に西日本系統と東日本系統が分岐したことが明らかになりました。
また、日本国内には少なくとも5つの遺伝的集団が存在し、その境界が津軽海峡を示すブラキストン線や、糸魚川―静岡構造線、琵琶湖および中国山地に沿って存在することが分かりました。これにより、地理的要因がウスバシロチョウの遺伝的多様性に大きな影響を与えていることが示唆されます。
研究の意義と今後の展望
この研究は、ウスバシロチョウが西ルートを経由して日本列島に渡来したことを明示する重要な知見となります。しかし、北ルートの可能性も完全には否定されておらず、今後の研究においてその詳細な分岐の年代や、オリジナルな分布の背景を解明することが求められています。また、中国大陸に生息する個体群との比較研究を進めることで、その生物地理的な進化の過程についてさらに深い理解が得られることでしょう。
研究者のプロフィール
本研究をリードした岐阜大学の土田浩治教授と岡本朋子准教授は、昆虫の遺伝的解析や生態学的研究を行い、その知見を新たな生物地理学の理解に役立てています。また、昆虫愛好家の協力のもと、より多様な視点からの調査が行われました。本研究の成果は、『Molecular Phylogenetics and Evolution』誌においても正式に発表される運びとなりました。
このように、ウスバシロチョウについての新たな知見は、単なる分布調査にとどまらず、遺伝的多様性やその進化のメカニズムを理解する上で重要なステップとなっています。今後の研究に期待が高まります。