熊本大学が築いた造血幹細胞発生の新たな道
熊本大学 発生医学研究所の古賀沙緒里助教と小川峰太郎教授を中心とする研究チームは、造血幹細胞の発生過程を試験管内で再現することに成功しました。この成果は、造血幹細胞を前駆細胞である血管内皮細胞から誘導する新たな方法論を提供するもので、今後の医学研究に大きな影響を与えることが期待されています。
研究の背景と目的
造血幹細胞は、血液の主要な成分を生み出す能力を持つ細胞です。これまでの研究では、血管内皮細胞から造血幹細胞を誘導するために、多くの支持細胞との共培養や血清を用いた培養法が必要でした。こうした方法はその汎用性が低く、細胞のメカニズム解明に制約をかける要因となっていました。そこで、研究チームは誰もが利用できる材料を使用した血清フリーの培養法の確立を目指しました。
新しい培養法の開発
研究チームは、一般的な血管内皮細胞株を用い、特定の成分、ステムセルファクター(SCF)とトロンボポエチン(TPO)のみを添加することで、造血幹細胞の分化を誘導することに成功しました。これは従来の方法とは異なり、容易に再現可能なアプローチだと言えます。この培養法は、特別な材料を必要とせず、豊富な汎用性を持つため、今後の造血幹細胞研究において強力なツールとなるでしょう。
造血幹細胞のメカニズム解明に向けて
本研究で明らかになったことは、血管内皮細胞が造血幹細胞へと分化する際、大動脈内腔における環境とSCFが重要な役割を果たすということです。プレ造血幹細胞から造血幹細胞への分化にも、SCFとTPOの供給が求められ、そのためには肝臓への移行が不可欠であることも示されました。これにより、分化過程の詳細なメカニズムへの理解が進むと思われます。
将来に向けた展望
構築された培養法は、造血幹細胞の発生過程を実験室で詳細に把握するための新しい研究手段を提供します。この方法が、将来的には多能性幹細胞、すなわち胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)からの造血幹細胞誘導の成功に繋がることも期待されています。
この研究は日本時間2024年7月23日付で、アメリカ合衆国の著名な科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)』に掲載されました。
本プロジェクトは、東京女子医科大学や東京医科歯科大学との共同研究として行われ、文部科学省や公益財団法人稲盛財団の支援を受けました。
まとめ
熊本大学の研究によって実現されたこの新しい培養法は、大学内の研究者のみならず、世界中の研究者にも利用されることが期待されています。造血幹細胞研究が進展することにより、未来の医療介入における新たな道を開くことが期待されます。