腸管と精神疾患
2023-03-26 01:25:27
腸管免疫システムとうつ病の関係を解明する最新研究
腸管免疫システムと精神疾患の新たな関係
近年、腸と脳の間に存在する密接な関係、通称「腸脳相関」が注目されています。特に、腸内には多くの細菌が存在し、これらは腸内細菌叢(腸内フローラ)と呼ばれ、身体の健康や免疫系に大きな影響を及ぼすことが知られています。しかし、この腸内細菌叢がストレスを受けた際にどのように変化し、精神疾患の発症に関与するかについては、依然として解明されていない点が多いのです。
研究の背景と目的
このたび、米国のジョンズホプキンス大学の神谷篤教授と酒本真次研究員(現・岡山大学助教)らのチームによって、腸管免疫システムにおける重要なリンパ球、「γδT細胞」とうつ病の関連性が研究されました。特に、同研究では、ストレス下にあるマウスを対象に、腸内の特定の乳酸菌の減少がうつ病様行動に関連していることが示されました。
γδT細胞の役割
γδT細胞は、体内の粘膜に多く存在するリンパ球の一種で、免疫反応を制御しています。この細胞は腸管にも豊富に存在しますが、脳との相互作用においての役割は未だ理解されていませんでした。研究チームの実験によると、ストレスを受けたマウスではγδT細胞の分化と、腸内の特定の乳酸菌の減少が観察され、これがうつ病の兆候を示唆するという結果が得られました。
ストレスと乳酸菌との関係
研究者たちは、慢性的な心理社会的ストレスがマウスからの社会的相互作用を低下させることを確認しました。この実験では、ストレスを受けたマウスの腸内で乳酸菌が減少し、それがうつ病様行動を引き起こすことが観察されました。さらには、ヒトのうつ病患者でも、同様の乳酸菌の減少がうつ病の症状の重症度と相関していることが報告されています。
IL-17と小胞体内の細胞の移行
さらに、ストレスによってγδT細胞から産生されるIL-17という炎症性サイトカインの役割も明らかにされました。これらの細胞は脳髄膜へ移行し、うつ病様行動を引き起こすことが確認されたのです。一方で、漢方生薬である「茯苓」の成分であるパキマンが、ストレスによるこれらの反応に対する予防効果があることも示されました。
研究の意義
既存のうつ病治療薬は、主に脳内の神経伝達物質を調整するものですが、多くの患者が治療に対して抵抗性を示しています。今回の研究は、腸管の免疫システムを新たな創薬ターゲットとして設定することで、ストレスによって引き起こされる精神疾患に対する新しい治療法の開発につながる可能性が期待されています。
この研究成果は、心理的ストレスが及ぼす腸内環境への影響、さらにはうつ病を含む心身の健康に理解を深めるものとして、未来の医療に一石を投じる重要なものであると言えるでしょう。
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