ユーグレナにおける新たなイントロン配列規則の発見とその展望
概要
最近、理化学研究所を中心とした共同研究グループが、真核生物の遺伝子発現における重要な現象、mRNAスプライシングの新たな規則を発見しました。この研究では、ユーグレナ(ミドリムシ)において、従来の真核生物に見られる配列ルールとは異なるイントロンの共存が明らかにされました。この発見は、遺伝子機能の発現制御において画期的な進展をもたらす可能性があります。
研究の背景
真核生物には、遺伝子がエクソンとイントロンから構成されています。エクソンはタンパク質を作る情報を持つ部分であり、イントロンはそのスプライシング過程で除去される非コード領域です。このスプライシングは、正確な遺伝子機能の発現にとって極めて重要ですが、常にGT-AGルール(イントロンの始まりと終わりの配列パターン)が適用されるわけではありません。これまでもユーグレナにおいて一部の非従来型イントロンが存在することは知られていましたが、具体的にどれほどの非従来型イントロンが共存し、スプライシングに必要な配列ルールが存在するのかは不明でした。
研究手法
この研究では、ユーグレナの全ゲノム解析とトランスクリプトーム解析を行い、エクソン-イントロン構造を調査しました。その結果、65万か所以上のイントロンの71.8%がGT-AGルールから逸脱していることが判明しました。さらに、この非従来型イントロンがスプライシングに必要な新たな配列ルールがあるのかを調査するため、ゲノム編集技術を駆使して、人工イントロンを導入し、スプライシングの成否を確認しました。
研究成果と重要性
ユーグレナ・アジリスのゲノム解析から、特異な配列モチーフCAGとCTGが非従来型イントロンのスプライシングに重要であることが確認されました。さらに、これらのモチーフが適切な間隔で配置され、隣接するエクソンの開始点がプリン塩基に富むことがスプライシングのために重要であることが示されました。これにより、ユーグレナの非GT-AGイントロンのスプライシングに必要な配列要素が特定でき、遺伝子構造の再評価も行われました。従来型のイントロンに比べ、非従来型のイントロンが54.2%を占めることが明らかになりました。
今後の展望
この研究の成果は、ユーグレナの遺伝子構造の正確な理解を促進し、ゲノム編集技術を用いて有用物質生産の効率化や、二酸化炭素固定に向けた生物資源の利用に貢献する可能性を秘めています。また、ユーグレナ・グラシリスはバイオ燃料や健康食品など、近年非常に注目されている生物であり、その遺伝子改良に向けた基礎資料としても重要です。持続可能な開発目標(SDGs)への貢献も期待されており、今後の研究が待たれます。