新たなエッセイが描くフレッシュな感動
2023年に、寿木けいさんの素晴らしい新作エッセイ『わたしの美しい戦場』が7月30日に新潮社から刊行されます。このエッセイは、著者が新たに築いた130年の古民家「遠矢山房」での日々を通じて、食と人との出会いをありのままに描写しています。
遠矢山房では、各地からやってきた人々をもてなすために、著者は一方で料理を、もう一方で人とのふれあいを楽しむという稀有な体験をしています。この本は、四季の移り変わりや、人々との一期一会の出会いを通じて、彼女自身の人生もまた豊かに彩られていく様子を描いています。
著者は、エッセイの中で色彩豊かな季節の恵みを活かした料理を語り、それぞれの季節ごとの行動を通して、どれだけのことに心を奪われてきたのかを見事に表現しています。春にはふきのとうを摘み、夏には草を刈って桃をかじる、秋には柿を干して鹿肉を焼く。冬には薪を割って柚子を蒸すという、四季折々の料理とその背景には、一切の妥協を許さない著者のこだわりと確かな技術が垣間見えます。
著者が料理をする時間は、朝の明け方、鼻と舌が一番冴えるこの時期に。ここでの彼女の調理プロセスもまた印象的で、色や味を慎重に調整しながら、ゲストに特別な体験を提供します。このように、彼女の料理の背後には、ただ味わいを求めるだけではなく、人々との心のつながりを大切にする姿勢が宿っています。陶酔感を味わう度に、著者は日常の何気ない時間が実はかけがえのないものであると気づかされます。
また、寿木さんは様々な人生を歩んできた人々との出会いについても触れています。妊娠を控えた母親、子供の不登校に悩む親、夢に向かって奮闘する人々など、著者が知った暮らしの一端から、人生の深淵に触れる思いを抱きます。彼女は、「なんてことない顔をして、みんな大した人生を生きている」と言及し、日々の生活の中で美しい瞬間を見つめ、かみしめることの大切さを伝えています。わたしたち自身も、他者の人生に興味を持つことで、より豊かに生きることができるのかもしれません。
さて、この本は単なる料理本とは異なり、著者の深い思慕と季節の訪れを共鳴させながら、人間や食の織りなす深い物語を紡いでいます。彼女は、2年間の日々を振り返り、それを本に記す機会を得たことを嬉しく思っています。「人生は思うほど険しくはない」と信じて、目を凝らしていけば、周囲の美しさを感じられることを教えてくれます。
しんどい時期にも、興味を持って一歩踏み出す勇気があれば、未知の世界への扉が開くことを示唆しています。寿木さんが東京を離れ、山梨での生活を始めたのも、そのひとつの例です。彼女が味わう地元の恵みや、土地に根ざした生活になくてはならない豊かさが、読者を新たな世界と出会わせてくれるでしょう。
このエッセイを手に取ることで、食や人生にまつわる深い味わいについて思いを馳せる時間を得られるはずです。寿木けいさんの美しい文章とともに、心に響くひとときを楽しんでみてはいかがでしょうか。