ヒスタミンH1受容体とDoxepinの熱力学的特性
最近、東京理科大学と東京大学の研究グループが行った研究により、ヒスタミンH1受容体(H1R)におけるdoxepinの幾何異性体(Z-doxepinおよびE-doxepin)の結合が明らかになり、その熱力学的特性について新しい知見が得られました。この研究は、GPCR(Gタンパク質共役型受容体)標準に基づいた医薬品開発に向けて重要な足がかりとなるでしょう。
研究の背景と意義
Gタンパク質共役受容体は、現在の医薬品開発で重要な標的であり、実際に市販されている医薬品の30%以上がこれに関連しています。H1Rは、アレルギーや炎症反応の制御に関与し、抗ヒスタミン薬の開発においても中心的な存在です。しかし、第一世代の抗ヒスタミン薬は副作用が多く、第二世代の薬剤にも効果に限界があります。このため、より効果的かつ安全な新しい薬剤の探索が求められています。
本研究では、doxepinの2つの異性体の結合特性を解明することを目指しました。これまでの研究で、Z-doxepinはE-doxepinよりも約5倍強くH1Rに結合することが知られていましたが、そのメカニズムの詳細は不明でした。今回の研究により、Z-doxepinの優れた親和性がどのようにして得られるのか、熱力学的な側面から明らかにされました。
実施方法と結果
研究では、等温滴定型カロリーメーター(ITC)を利用し、H1Rとdoxepinの幾何異性体との結合を直接測定しました。分子動力学(MD)シミュレーションも併用し、doxepinがH1Rに結合する際のエンタルピーとエントロピーのバランスを分析しました。その結果、Z-doxepinがエンタルピーによる利得が大きいことが判明し、これは主にファンデルワールス力に起因することが示されました。
一方、変異型H1Rとの相互作用では、エンタルピーの寄与は小さくなり、エントロピーの寄与が重要な役割を果たすことが分かりました。このことから、Thr1123.37の存在がH1Rにおけるdoxepinの選択的な結合に大きな影響を与えることが考えられます。
今後の展望
本研究の結果は、GPCRをターゲットとした薬剤設計において重要な指針を提供すると期待されています。特に、立体化学を優先的に考慮した分子設計や、特定の受容体変異に基づいた個別化された医療への応用が望まれます。さらに、熱力学的な視点からの相互作用解析は、他のGPCRやタンパク質への展開も見込まれています。
この研究を代表する白石教授は、「本研究の手法が新たなGPCR創薬に貢献できると確信しています」とコメントしています。今後の研究が注目されます。
研究の公表
本研究成果は、2026年1月26日に国際的な学術誌『ACS Medicinal Chemistry Letters』にオンラインで発表されました。