先天性筋疾患のメカニズム解明に向けた新たな発見と治療の可能性
先天性筋疾患のひとつである悪性高熱症(MH)やセントラルコア病(CCD)の発症メカニズムを解明する重要な研究が発表されました。この研究では、順天堂大学の村山尚准教授を中心とするグループによって、1型リアノジン受容体(RyR1)の膜貫通セグメントS5が、チャネルの活性を制御する「一人二役」の役割を果たすことが明らかとなっています。これは、先天性筋疾患の理解をさらに深めるだけでなく、新たな治療法の開発にもつながる可能性があります。
研究背景
1型リアノジン受容体(RyR1)は骨格筋のカルシウム遊離チャネルとして筋収縮に深く関与しています。しかし、RyR1の遺伝子変異は、MHやCCDといった重篤な筋疾患の原因であることが知られています。MHは外科手術での麻酔時に高熱を引き起こし、CCDは持続的な筋力低下を招く病気です。これらの疾患は、それぞれ異なるメカニズムでRyR1の機能に影響を与えるため、その解明が求められていました。
研究内容
今回の研究では、研究者たちがS5に存在する疾患変異を解析しました。11種類の変異が確認され、そのうち3種類はMHの原因であり、残りの8種類がCCDを引き起こすものでした。これらの変異を持つRyR1を細胞内に導入し、機能解析を行った結果、MH変異はチャネル活性を増加させ、CCD変異は活性を低下させることが確認されました。
また、クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析では、S5がS6膜貫通セグメントと相互作用していることが明らかになりました。MH変異がS5の抑制効果を解除する一方で、CCD変異が必要な構造基盤を破壊することが観察されました。
今後の展開
本研究によって、S5の新しい役割が明らかになり、これが先天性筋疾患の発症にどのように関与しているのかが理解されつつあります。とりわけ、S5が細胞内と小胞体内で異なる機能を持つこと、すなわち「一人二役」であることが新たに示されました。これに基づいて、RyR1の構造異常を修正する新たな治療薬の開発が期待されます。
研究者のコメント
研究のリーダーである村山准教授は、「疾患変異がタンパク質の機能を理解するカギとなることを示しました。これをもとにさらに多くの解析を進め、RyR1の動作原理の解明を目指します」と意気込みを語っています。また、小川准教授は「RyR1のような巨大タンパク質においては、構造や機能を把握するための試行錯誤が続きますが、この研究が新たな道を切り開くことができました」とコメントしています。
本研究の成果は、2024年9月18日付でCommunications Biology誌に掲載される予定です。将来的には新規創薬の道が開けることに期待がかかります。