骨格筋の生理的収縮にCa2+誘発性Ca2+遊離が寄与しないことを証明した研究
順天堂大学の医学部薬理学講座の小林琢也助教を中心とした研究グループは、国立精神・神経医療研究センターと共同で、骨格筋におけるCa2+誘発性Ca2+遊離(CICR)が生理的な筋収縮にはほとんど関与しないことを明らかにしました。この成果は、長年にわたって議論されてきたRyR1の役割に一つの結論を導き出すものであり、米国科学アカデミー紀要に2025年8月21日付で報告されました。
研究の背景
リアノジン受容体(RyR)は、筋小胞体の膜に存在するCa2+遊離チャネル。この受容体は、心筋と骨格筋のそれぞれで異なる役割を果たします。特に、RyR1は骨格筋において筋収縮に必要なCa2+を供給しています。しかし、リサーチではCICRの機能が骨格筋の正常な収縮にどれだけ貢献するのかについて、賛否が分かれる状況が続いていました。
この研究では、CICRを選択的に抑制できるモデルマウスを作成し、実際にその筋収縮能力を評価することが試みられました。研究チームは、Ca2+結合部位に変異を与えたRyR1を基にした新しいモデルマウスを考案し、CICRが骨格筋の生理的収縮に与える影響を徹底的に解析しました。
研究成果の概要
研究において、Ca2+結合部位のグルタミン酸をアラニンに置換したRyR1-E3896Aマウス(EAマウス)を作成しました。このマウスは、DICR(脱分極誘発性Ca2+遊離)は正常に機能するものの、CICRは抑制されていました。驚くべきことに、EAマウスの筋収縮時のCa2+トランジエントや、単離筋の発生張力、全体筋力は野生型マウスと同等でありました。この実験結果は、CICRが骨格筋の生理的収縮にはほとんど寄与しないことを示唆しています。
また、CICRは悪性高熱症(MH)の病態生理に関与していることが示唆されています。この病気は、特定の麻酔薬により引き起こされる危険な反応です。分野の先駆者である研究チームは、MHモデルマウスとの交配実験を通じて、CICRの異常活性がMHの誘因となることを示しました。
研究の意義
この研究的成果は、今後の研究や臨床応用において非常に重要な示唆を提供します。CICRの活性化が筋疾患を悪化させるとされ、高齢化社会においては健康寿命を延ばす新たなアプローチとしてCICRの制御が期待されます。特に、筋萎縮やサルコペニアといった加齢に関連する問題に対して、新たな治療法を見出す手助けになるでしょう。
今後の展望
今後は、CICRが筋疲労や熱産生などにどのように関与するのかを明らかにするためのさらなる研究が期待されます。この研究の成果を受けて、骨格筋におけるCa2+の役割がさらに深く探求され、将来的には新たな治療戦略が構築されることが期待されています。
用語解説
1Ca2+誘発性Ca2+遊離(CICR):Ca2+の結合により誘発される開口モード。
2リアノジン受容体(RyR):Ca2+遊離を制御する受容体。
3筋小胞体(SR):Ca2+の貯蔵庫として機能します。
4ジヒドロピリジン受容体(DHPR):筋細胞での電位依存的Ca2+チャネル。
*5脱分極誘発性Ca2+遊離(DICR):T管膜の脱分極による部分です。