機械学習と分子シミュレーションを結びつけた新たな高分子材料設計ツールSPACIERの開発
近年、材料科学の分野では、機械学習を活用したデータ駆動型の研究が進展していますが、高分子材料の設計には多くの困難が伴います。その中で、総合研究大学院大学の南條舜院生とJSR株式会社のArifin研究員を中心とした研究グループが、新しい高分子材料自動設計ツールSPACIERを開発しました。このツールは、機械学習と分子シミュレーションを結びつけており、特に光学用高分子の合成において顕著な成果を上げています。
SPACIERが変える高分子材料の設計
SPACIERは、全自動で高分子材料のデザインを行う革新的なソフトウェアです。主要な目的は、屈折率とアッベ数の限界を越える光学用高分子の合成を達成することであり、この技術は光学機器などに広く利用される材料の特性を改善する可能性を秘めています。このツールは、RadonPyという計算機実験のプラットフォームを基に開発されており、ベイズ最適化などの高度なアルゴリズムを統合しています。
光学用高分子の探索とその成果
光学用高分子は、メガネやカメラレンズなどで必要とされる素材であり、高屈折率と高アッベ数が求められます。しかし、通常、この二つの特性はトレードオフの関係にあり、同時に向上させることは難しいとされています。そのため多くの既存材料が経験的な限界値に収束しています。
今回の研究チームは、SPACIERを用いた計算機実験によって、この経験的な限界を超える新たな高分子材料の合成に成功しました。これにより、SPACIERの活用が今後の材料探索や性能最適化において大きな革新をもたらすことが期待されています。
SPACIERが実現するのは、単なる新素材の発見だけでなく、光学特性を持つ高分子設計の効率化です。RadonPyを駆使することで、化学構造から物性計算に至る全過程を自動化し、材料設計の時間とコストを大幅に削減できます。これは高分子研究特有の計算コストの高さと自動化の技術的難しさを克服する助けとなります。
今後の展望と産学連携
SPACIERの開発には、2国研・8大学・37企業からなる産学連携コンソーシアムが関与しており、この協力体制がデータ駆動型高分子材料研究のさらなる発展を促進しています。研究者たちは、将来的にこのツールを利用して高分子の特性探索や、新たなアプリケーションの展開に取り組む予定です。
発表された論文は、2025年1月28日にnpj Computational Materials誌に掲載される予定であり、今後の高分子研究の発展に寄与することが期待されています。SPACIERを通じて、材料科学の可能性はますます広がっていくことでしょう。