脳科学研究の未来を拓く!産学連携の現状と課題、そして統合プログラムへの期待

脳科学研究の未来を拓く!産学連携の現状と課題、そして統合プログラムへの期待



文部科学省の「脳神経科学統合プログラム」作業部会では、産学連携の現状と課題が熱心に議論されました。特に注目されているのは、神経変性疾患と精神疾患の創薬における課題克服と、社会実装への道筋です。

理化学研究所が牽引する「脳データ統合プラットフォーム」



理化学研究所の影山龍一郎センター長は、「脳データ統合プラットフォーム」の開発と活用による脳機能と疾患病態の解明について、具体的な計画を発表しました。このプロジェクトは、マーモセットを用いた全脳マップの構築、ヒト精神・神経疾患のデータベースを統合し、デジタル空間で脳機能をマッピング・シミュレーションする「デジタル脳」の構築を目指しています。

影山センター長は、「革新脳」と「国際脳」という2つの国家プロジェクトで蓄積されたデータの統合を重要視し、5つの研究グループと連携体制を構築することで、デジタル脳の開発と精神・神経疾患の診断・治療法の創出、創薬シーズの創出につなげたいと考えています。

当事者のニーズと、産学連携の現状



名古屋大学大学院医学系研究科の尾崎紀夫特任教授は、AMEDの支援を受けて行った当事者アンケートの結果を報告し、当事者・家族は、精神・神経疾患の病態解明と効果の高い治療法の開発を切望していることを明らかにしました。

尾崎特任教授は、ARHGAP10遺伝子にリスクバリアントを持つ統合失調症患者さんのiPS細胞を用いた研究成果を紹介し、Rho-kinase阻害薬が有効である可能性を示唆しました。また、睡眠障害が客観的な評価指標となる可能性にも触れ、ウェアラブルデバイスを活用した睡眠モニタリングの重要性を訴えました。

創薬における課題と、産学連携の促進



順天堂大学脳神経内科の服部信孝教授は、パーキンソン病の研究開発における現状と課題を説明しました。服部教授は、αシヌクレインの構造の違いが、パーキンソン病と多系統萎縮症を区別する新たな指標となる可能性を示唆しました。また、血中異常シヌクレインシードを測定できる方法の開発や、腸内細菌移植療法など、多角的な研究に取り組んでいることを報告しました。

服部教授は、創薬における課題として、メーカーのスピード感の遅さ、臨床と基礎研究の連携不足、そして、患者データの取扱いに関するルール整備の必要性を訴えました。

議論から浮かび上がった課題と展望



作業部会では、産学連携の促進に向けて、以下のような課題と展望が議論されました。

企業とアカデミア間の情報交換不足: 企業側は、基礎研究の最新情報や、臨床現場の知見を十分に理解していないことが課題として挙げられました。AMED主導の勉強会や、情報共有の場を設ける必要性が示されました。
スタートアップ支援の必要性: 欧米では、アカデミア発のベンチャーが、フェーズ1、フェーズ2までの開発資金を調達し、大企業に引き継がれるという仕組みが確立されています。日本でも、スタートアップ支援を強化し、起業家育成を促進することで、創薬研究を加速させる必要があると考えられます。
国際的な視点: 海外の研究動向を視野に入れ、国際的な競争力を強化する必要性が指摘されました。海外の研究機関や企業との連携を促進し、国際共同研究を推進することで、より革新的な成果が期待できます。
PMDAとの連携: PMDAとの相談は、薬事関連の専門知識が必要で、多くの研究者にとってストレスフルな経験となっています。支援班がPMDAとの連携を支援することで、研究開発をスムーズに進めることができるのではないかと期待されています。

統合プログラムへの期待



文部科学省の「脳神経科学統合プログラム」は、脳科学研究を加速させ、社会実装につなげるための重要な取り組みです。作業部会での議論を通して、産学連携の促進、スタートアップ支援、国際的な連携強化など、様々な課題が浮き彫りになりました。

今後のプログラムの展開においては、これらの課題を克服し、脳科学研究の新たな発展を牽引していくことが期待されます。

トピックス(科学)

【記事の利用について】

タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。

【リンクついて】

リンクフリーです。