ピロリ菌が胃がん発症に関与する新たなメカニズムを解明

千葉大学大学院医学研究院と法政大学、大分大学、杏林大学などが共同で行った研究によると、ピロリ菌が持つ特別な制限酵素が人間の遺伝子に影響を与え、胃がんを引き起こすメカニズムが明らかになりました。この研究成果は、2025年8月5日に国際学術誌PNAS Nexusに掲載されました。

研究の背景

胃がんは、年間約100万人が新たに発症し、そのうち70万人が命を落としている重大な疾患です。この疾病の主な原因はピロリ菌です。これまでも、cagA遺伝子を持つ細菌ががん発症に関与しているとされてきましたが、地域によって発症率に大きな差があることから、従来の説明だけでは不十分でした。

そこで研究者たちは、ピロリ菌が持つ制限酵素HpPabIに着目しました。HpPabIは特定のDNA塩基を切り出す唯一無二の性質を持ち、この作用ががんのリスクにどのように関係しているのかを探求したのです。

研究成果

研究チームはまず、がん細胞内の遺伝子変異パターンを詳細に解析しました。その結果、胃がんにおいて特に「GTAC」という4塩基のうち、3番目の「A」が変異に敏感であることが判明しました。これにより、ピロリ菌が持つ制限酵素HpPabIの影響が強いことが示唆されました。

更に、世界中の2,300株以上のピロリ菌を解析したところ、HpPabI遺伝子を持つ株が高い胃がん発症率を示すことが確認されました。また、実験を通じて、HpPabIによるDNAの二本鎖切断が観測され、がんの発症に直結するメカニズムが強く示唆されました。

未来への展望

この研究結果は、ピロリ菌が単に感染を介した炎症だけではなく発がんを引き起こす可能性があることを示しています。今後は、動物モデルを用いたさらなる実験が求められ、これがクリアされることで、新しい診断法や予防法の開発に結びつくと期待されます。

このように、細菌とヒトの遺伝子情報の相互作用を研究することは、がんの複雑な本質を理解し、未来の個別化医療への道を開く鍵となります。研究者たちは、さらなる解明に向けて尽力していく意欲を示しています。