超低周波音測定の新たな地平
近年、自然現象のモニタリングが注目されていますが、その中でも特に重要なのが超低周波音(インフラサウンド)です。この音は人間が感じ取ることのできない周波数帯域に存在し、火山の噴火や津波などの大規模な自然現象に伴って発生します。こうした自然現象を遠隔で監視するためには、インフラサウンドの正確な測定が欠かせません。
そのために、信頼性の高い音圧センサーの感度評価が重要視されています。国立研究開発法人である産業技術総合研究所(産総研)では、超低周波音を測定するための画期的な音圧発生装置を開発し、その感度評価の下限を0.01Hzまで引き下げることに成功しました。
新たな評価技術の開発
産総研の音波振動標準研究グループは、液柱振動を利用した音圧発生方式を採用し、従来の評価装置の限界を打破しました。従来方法では、音圧発生部分に隙間が必要であったため、低周波数での音漏れが避けられず、正確な測定が難しいという課題がありました。これが原因で、従来の装置では0.1Hzまでの評価しか行えなかったのです。
新たに開発された装置では、音漏れが一切発生しない原理を採用しています。この技術により、音圧センサーの感度をこれまでよりも大幅に向上させることが可能となり、より精度の高い観測が実現しました。
インフラサウンド観測の重要性
インフラサウンドは、可聴音と比較し空気中での減衰が少なく、遠方まで伝わる特性があります。そのため、近くでの観測が難しい現象のモニタリングにとても有効です。近年では、特に火山噴火や津波といった自然災害に対する観測網の整備が進められています。観測データの正確性が求められる中、音圧センサーの感度評価は非常に重要な役割を果たしています。
感度評価装置の仕組み
新装置は、円筒内部と外部で水位差を利用して音圧を発生させる仕組みです。円筒の下端は水で密閉されているため、音漏れが一切発生せず、安定した音圧の計測が可能になりました。また、音圧は水面の変動に比例して算出されるため、非常に精度の高い測定が実現しています。この成果をもとに、インフラサウンド観測網の信頼性向上を目指して、今後も様々な現場観測機器の評価に取り組んでいく予定です。
今後の展望
産総研では、さらに加振部分を改良し、音圧を増大させることを目指しています。また、環境音が測定結果に影響を与えないよう、遮音箱の導入によるノイズ低減も視野に入れています。これにより、測定結果のばらつきを減少させ、自然現象の発生メカニズムや発生場所の推定精度を向上させることが期待されています。
この研究開発は、日本学術振興会や公益財団法人精密測定技術振興財団の助成を受けており、その成果は2024年の『Metrologia』にて発表される予定です。今後の研究の進展に注目です。
最後に
この新技術の開発は、自然災害の予知や災害対策の強化に直結するものであり、社会全体に大いに貢献することが期待されます。音圧センサーの信頼性の向上と、より精度の高いインフラサウンド観測の実現は、私たちの生活環境をより安全に保つ手助けとなるでしょう。