ミトコンドリア病の新たな発見
研究背景と課題
ミトコンドリア病とは、筋肉、脳、心臓などに影響を及ぼす難治性の疾患群であり、厚生労働省によって指定難病とされています。これらの病気は非常に希少で、発症率は約5,000人に1人とされていますが、未診断率が60%を超えるという深刻な問題を抱えています。これまでに425以上の遺伝子の異常がこの病気を引き起こすことが示唆されていますが、特に短い配列の繰り返しから成るリピート配列の異常が、ミトコンドリアの機能に大きく影響することがわかっています。リピート配列の異常伸長が引き起こす疾患は、神経に障害をもたらすケースが多く、正確な診断にはロングリードシーケンサーという特別な技術が必要です。
研究の目的
この度、理化学研究所の研究グループは、未診断ミトコンドリア病患者の遺伝子変化を特定し、新たなリピート異常の同定を目指しました。2,932人の患者を対象に、最新の遺伝子解析技術を駆使して、病因となる遺伝子変化の特定を進めています。
手法と成果
RNAシーケンシングを用いて、患者由来の皮膚線維芽細胞からRNAを解析。特に注目されたのは、NAXEと呼ばれる遺伝子の発現が著しく低下している症例であり、この変異がNAXE関連脳症につながることが示されました。さらに、ロングリードシーケンサーを用いて、NAXE遺伝子のプロモーター域の異常伸長が約200回も繰り返されていることを明らかにしました。健常者ではこの範囲が3~5回の繰り返しであることから、異常な変異が病因であることが証明されたのです。
また、NAXEのプロモーター領域でのCpGメチル化の亢進も発見され、これは遺伝子の発現を抑制する要因となることが示されました。これにより、NAXEのタンパク質やRNAが減少し、結果的にミトコンドリア機能障害が引き起こされるメカニズムが解明されました。
今後の展望
本研究の成果は、未診断のミトコンドリア病患者の診断に向けて大きな一歩となります。リピート配列の異常に着目し、それがなぜ病気を引き起こすのかを理解することで、他の遺伝性疾患にも今後の研究が期待されます。ヒトゲノムの多くが繰り返し配列から成るため、この研究が他の病気の解明に寄与する可能性も高まります。リピート病の研究は、医学の発展にむけて重要な課題であると言えるでしょう。
研究の重要性
この研究は、リピート配列に起因するヒト疾患の新たなメカニズムを解明した初めてのものであり、今後の研究や治療法の開発においても、重要な基盤となるでしょう。また、リピート病に関する研究は、他の疾患の診断や新たな治療方法の発見につながる可能性があるため、今後の研究がますます注目されます。