ピロリ菌が引き起こす胃がんのメカニズムを解明した新たな研究
杏林大学の医学部予防医学教室、大﨑敬子客員教授が率いる研究チームは、国内外の研究者と共に、ピロリ菌がどのようにして胃がんを引き起こすのか、そのメカニズムを明らかにしました。この研究は、アメリカの国立がん研究所がリードするピロリ菌ゲノム国際プロジェクト(HpGP)の一環として行われました。
ピロリ菌と胃がんの関係
胃がんは、日本を含む多くの国で主要な死因の一つです。その主な原因とされているのがピロリ菌です。この細菌は、胃の内部に生息し、慢性的な胃炎を引き起こすことが知られていますが、その細菌ががんの発症にどのように関与しているのかは長年の間、謎のままでした。
今回の研究では、ピロリ菌が分泌する特別な制限酵素が、ヒトのゲノムに作用し、変異を引き起こす仕組みが解明されました。この制限酵素は「DNAを切るハサミ」としての機能を持っており、特定の塩基を切り出すことによって、遺伝子の変異や切断を引き起こします。
研究の重要な証拠
この研究で取得された多くの証拠は、次のように構成されています。
1.
ピロリ菌のゲノム解析: 世界中のピロリ菌を集め、そのゲノムを解析した結果、胃がん患者由来の細菌が特定の制限酵素を持つことが確認されました。この相関は、胃がんの発症における細菌の重要性を強調しています。
2.
変異の頻発: 胃がんのゲノム内では、特定の配列においてこの制限酵素が切り出す塩基の変異が頻発していることが判明しました。
3.
人間細胞への感染実験: ヒト細胞にピロリ菌を感染させたところ、この制限酵素によってゲノムの切断が確認されました。これにより、細菌が直接的に遺伝子に作用している証拠が得られました。
4.
変異生成の促進: ピロリ菌の変異検出実験系を用いることで、この制限酵素が変異の生成を十倍以上促進することが示されました。
この新型の制限酵素は、特にアデニン(A)を切り出す「塩基切り出し型」であることが特徴です。このメカニズムは、胃がん以外のがんでも同様に細菌の影響を考える手がかりとなるかもしれません。
研究者の声
大﨑教授は、以下のように述べています。「本研究は、がんの初期形成メカニズムの理解に新しい視点をもたらします。微生物ががんに及ぼす影響についての従来の認識を覆す結果となるでしょう。」
この発見によって、がんの初期形成過程に関する理解が飛躍的に進展し、今後のがん治療における新しいアプローチが期待されます。さらに、研究の成果は医療分野に多大な影響を及ぼす可能性があります。
まとめ
今回の研究は、ピロリ菌が引き起こす胃がんの理解を深めるだけでなく、がん研究全般に新たな認識をもたらすものとなっています。今後の研究において、さらに多くの知見が得られることが望まれます。