虹色X線でナノ材料の構造と機能を解き明かす! 産総研が開発したマルチモーダル計測法が革新的な材料開発に貢献
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)と国立大学法人 東京学芸大学は、放射光X線から作り出した虹色X線(波長分散集束X線)を用いて、ナノ材料の構造と機能を同時に解析できる革新的なマルチモーダル計測法を開発しました。
この技術は、従来の個別の計測では困難であった、ナノスケール構造(粒子のサイズと形状)と原子スケール構造(原子間距離、配位数、化学状態)の情報を同時に取得することを可能にします。これにより、ナノ材料の機能と構造の因果関係を詳しく知ることができ、これまで推測に頼っていた材料開発を大きく前進させることが期待されます。
ナノ材料の機能解明の鍵を握るマルチモーダル計測
ナノ材料は、電気電子製品から化粧品まで、私たちの生活に欠かせない存在となっています。その機能は、ナノスケールのサイズや形状、そしてさらにミクロな原子スケールの構造によって決定されます。
例えば、クリーンな発電技術として注目されている燃料電池では、電極触媒に白金などのナノ粒子が用いられています。このナノ粒子の表面積が大きければ大きいほど、発電効率が高まります。さらに、触媒原子の原子スケールの構造によっても、反応効率は大きく変化します。
従来、ナノ材料の構造解析には、X線散乱やX線吸収スペクトルなどの異なる計測法が用いられてきました。しかし、これらの計測法はそれぞれ異なる情報を得るものであり、個別に計測した結果を総合的に解釈することは困難でした。
産総研と東京学芸大学が開発したマルチモーダル計測法は、これらの情報を同時に取得することで、ナノ材料の構造と機能の因果関係を直接的に明らかにすることを可能にしました。
虹色X線でナノスケールと原子スケールの情報を同時に取得
本研究では、放射光X線から作り出した虹色X線(波長分散集束X線)を用いて、X線散乱とX線吸収スペクトルを同時かつ高速に計測する技術を開発しました。
X線吸収スペクトルは、原子間距離や配位数、化学状態などの原子スケール構造に関する情報を得るのに役立ちます。一方、X線散乱は、ナノ粒子のサイズや形状などのナノスケール構造に関する情報を得るのに役立ちます。
従来、これらの計測は個別に行われていましたが、本技術では、これらの情報を同時に取得することで、ナノ材料の構造と機能のより深い理解を可能にしました。
燃料電池の電極触媒を例に、マルチモーダル計測法の実証
研究チームは、燃料電池に用いられる、パラジウム(Pd)を白金(Pt)で被覆したナノ粒子触媒を分析することで、本技術の有効性を実証しました。
わずか0.1秒の測定時間で、ナノ粒子のサイズとその分布、およびPt被覆層の厚み、さらに原子スケール構造に関する情報を得ることができました。この速度は、従来の高速に交互計測する方法に比べて数十倍以上高速です。
革新的なナノ材料開発への貢献
本技術は、ナノ材料の動作条件下におけるオペランド観察に有効です。これにより、ナノ材料の機能と構造の因果関係を詳しく知ることができ、反応効率や耐久性の高いナノ材料の開発に貢献すると期待されます。
さらに、本計測で得られる構造データを統合的に分析することで、最適な構造や新機能を予測するマルチモーダル分析法の構築に取り組みます。これは、ナノ材料の設計手法として提供され、革新的な材料開発に貢献すると期待されます。
虹色X線が生み出す未来:ナノ材料解析の革新と新たな可能性
産総研と東京学芸大学が開発した、虹色X線を用いたマルチモーダル計測法は、ナノ材料研究に新たな地平を開く画期的な技術と言えるでしょう。従来の個別の計測法では得られなかった、ナノスケールと原子スケールの構造情報が同時に得られることは、ナノ材料の機能解明にとって大きな進歩です。
この技術は、燃料電池や触媒などの開発において、反応効率や耐久性を向上させるための重要なツールとなるでしょう。また、医薬品や化粧品など、様々な分野におけるナノ材料の設計・開発にも貢献することが期待されます。
しかし、この技術は、単なる計測技術の進歩にとどまりません。ナノ材料の構造と機能の関係をより深く理解し、新たな材料開発の可能性を切り開くための第一歩なのです。
例えば、これまで不可能であった、ナノ材料の動作中の構造変化のリアルタイム観察が可能になります。これは、ナノ材料の機能発現メカニズムを解明し、より高性能な材料を設計するための重要な情報となります。
さらに、本技術は、AIとの組み合わせにより、ナノ材料の設計シミュレーションの精度向上にも貢献する可能性を秘めています。ナノ材料の構造と機能をシミュレーションによって予測することで、実験による試行錯誤を大幅に削減し、開発効率を飛躍的に向上させることが期待されます。
虹色X線が生み出す新たな技術は、ナノ材料研究を大きく前進させるだけでなく、私たちの生活をより豊かにする新たなイノベーションを生み出す可能性を秘めています。今後の研究成果に期待が高まります。